
お金の歴史は、物々交換から始まり、塩など実用品が貨幣となったところに端を発する。シュメールの粘土板に記されたIOUは貸借関係を表し、誰かの資産であり負債でもある。アダム・スミスの説により「物々交換の発展形」と誤解されたが、実際の貨幣は信用と購買力の記録であり、現代金融の基盤を成している。(内田游雲)
profile:
内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
お金の歴史を知ることは、経営者にとって欠かせないマネーリテラシーである。人類の経済活動は、まず物々交換という非常にシンプルなシステムから始まった。
貨幣の原点と物々交換の時代
かつて人々は、生活に必要な品物同士を直接交換しながら生き延びてきた。
たとえば、家畜と穀物、または調味料として使われる塩が、その代表例である。塩は、保存性や希少性の面から「最も初期の貨幣」として評価され、古代ローマでは兵士の給料として支給された。
こうした物々交換は、双方が必要とするものを持っていなければ成立しないため、信頼やニーズが極めて重要であった。この原始的な取引の仕組みは、現代の市場における商取引や信用関係の原点とも言える。
つまり、すべては「人と人との約束」と「信頼」に基づいているのだ。
塩とサラリーの起源と信用の力
現代で「サラリー」という言葉を耳にすると、その語源が古代ローマにあることに驚くかもしれない。
実際、英語の「salary」はラテン語の「サラリウム」に由来し、ローマ兵士には塩が給料として支給された。塩は単なる調味料ではなく、生活に欠かせない価値ある商品であり、交換手段としての役割を果たしていた。

兵士たちは、塩を受け取ることでその生活を維持し、また塩を他の必需品と交換することで経済活動を展開した。
このエピソードは、貨幣が単なる物質そのものではなく、社会全体の信用や購買力を象徴する存在へと進化してきたことを示している。
つまり、現代のビジネスにおいても、単に商品のスペックだけでなく、その背後にある「信用」や「ブランドの物語」が、取引の成立と価値創造に大きく寄与していると言える。
一次産品から代表貨幣への進化
物々交換の限界を補うため、人々は次第に交換手段として「一次産品」を採用するようになった。
ここでいう一次産品とは、実際に利用可能かつ他の品物と容易に交換できる生産品のことであり、金属がその代表例である。金属は、加工することで道具や武器に変換できるため、実用性が高く、流通性にも優れていた。
こうした素材は、単に物質的な価値だけでなく、社会の信頼や需要を背景に、その価値が保証されるようになった。次第に、物そのものではなく「代表貨幣」として、価値の象徴や信用の記録として用いられるようになる。
経済学者たちは、これを「譲渡可能な債務」の記録と捉え、貨幣の抽象化が進むプロセスとして評価している。
経営者にとっては、単なる物理的資産だけでなく、信頼に裏打ちされた価値がどのように取引に影響するのかを理解することが、今後の資金戦略にとって極めて重要である。
貨幣はIOU~貸借関係と購買力の本質
貨幣の本質は、実は「IOU(I Owe You)」の記録、すなわち債務と債権の関係に他ならない。
分かりやすく言えば、貨幣とは「貸借関係」を記録するためのツールである。
現存する最も古い貨幣は、メソポタミア文明のシュメール人が使用した粘土板で、そこには「この粘土板を持つ者に、100ブッシェルの小麦を返す」といった約束が楔形文字で記されていた。
このように、粘土板を保有することで、債権者は自らの権利を主張し、借り手はその負債を履行する義務を負う。

貨幣が成立するためには、必ず二人以上の人間が関与し、貸借関係が生まれる必要がある。
たとえば、春にフライデーがロビンソンから野苺を購入し、「秋に魚を渡す」という約束(IOU)を交わすと、秋になるとロビンソンはその約束に基づいてフライデーから魚を受け取る。
このように、貨幣は「誰かの資産」であり、同時に「誰かの負債」である。
貸借関係が成立する時点で、実際に新たなお金が無から創出されるのだ。
すなわち、貨幣は「譲渡可能な債務」の記録であり、その購買力こそが経済の根幹をなす。
ヤップ島で用いられている石貨「フェイ」も、石自体の物質的価値ではなく、その背後にある物語と信用によって高い購買力を発揮している点は、貨幣の本質を象徴している。
アダム・スミスと貨幣の誤解
経済学の始祖アダム・スミスは『国富論』において、貨幣を「普遍的な商業用具」として位置付けた。
彼は、貨幣がこの用具の媒介によって、あらゆる種類の品物が売買され、相互に交換されると説いた。
しかし、この見解が後に「お金は物々交換の発展形として生まれた」という誤解を招き、いわゆる「アダムの罪」とも呼ばれる誤謬を生んでしまった。
お金を「物」として捉えると、当然数量に限りが出るという発想になり、どこかから現金を調達しなければならないという固定観念が広まる。
さらに、銀行すらも「また貸しをしている」という発想が常識となってしまった。
しかし実際には、お金は貸借関係の成立(すなわち、誰かがお金を借りればその瞬間に無から貨幣が誕生する)というシステムで創出される。
貨幣は、誰かの資産であり、同時に誰かの負債として発生する。
すなわち、資産が増えると必ず負債が増え、双方が連動しているのだ。
アダム・スミスの説が誤解を招いた結果、我々は貨幣の真実から遠ざかることになってしまった。
貨幣を単なる物質としてではなく、信用と購買力を示す「譲渡可能な債務」の記録として正しく理解する必要がある。
現代経営者に求められるマネーリテラシー
これまでの歴史をたどれば、貨幣は常にその実態を抽象化し、時代とともに形を変えてきたことが明らかになる。
現代では、クレジットカード、インターネットバンキング、電子マネーなど、実体を伴わないデジタル通貨が主流となっており、私たちが日常的に目にする現金はごくわずかだ。しかし、その裏側には膨大な信用と購買力が流れており、経済活動の根幹をなしている。
経営者として成功するためには、この「マネーリテラシー」をしっかりと身につけ、貨幣が単なる物ではなく「譲渡可能な債務」の記録として、また「購買力」の象徴として機能しているという本質を理解しなければならない。
物々交換から始まり、塩や金属、代表貨幣、そして紙幣やデジタル通貨へと、貨幣は常に「信用」と「購買力」に基づいて進化してきた。
これを理解すれば、現代の金融システムがどのように機能しているのか、またどのように資金管理やキャッシュフローの運用、さらには市場の動向に対応すべきかが見えてくる。

例えば、日本国内で日本円が流通しているのは、日本政府が納税を日本円でしか認めていないからであり、脱税で逮捕されないという「サービス」の購買力が日本円に付与されているからだ。
つまり、貨幣の価値は物質的な実体に依存するのではなく、社会全体の信用と、その背後にある約束、そして購買力に支えられているのだ。
経営者として、最新の金融情報に敏感でありながら、歴史に裏打ちされたマネーリテラシーを磨くことが、企業の持続的成長と成功への鍵である。
お金の歴史を学び、その本質を理解することで、あなたは単なる数字や紙幣のやり取り以上に、その背後にある「信用」と「購買力」の力を実感できるはずだ。
これにより、将来的な経営判断においても、過去の知見を活かし、冷静な分析と戦略的な資金管理を行うことができる。
未来のビジネスシーンで確かな成果を生むために、今こそお金の歴史に学び、その知識を武器として、自社の成長戦略に活かしてほしい。
貨幣は物々交換の原点から始まり、塩や金属、さらにはIOUとしての貸借関係を記録するシステムへと進化してきた。
アダム・スミスの説が招いた誤解(「お金は物々交換の発展形である」という誤認)を乗り越え、現代においては、貨幣は単なる物質ではなく、信用と購買力に裏打ちされた「譲渡可能な債務」の記録であると理解すべきである。
経営者として、こうしたマネーリテラシーを磨くことが、今後の資金運用や市場での競争において大きなアドバンテージとなるだろう。
歴史から学び、未来への戦略に活かすことで、あなたは確かな成長と成功を手にするに違いない。