
金持ちのマネをすれば成功するという考えは危険だ。多くの人が派手な消費を金持ちの象徴と誤解し、収入を超えた支出に走る結果、破産に至る。特に、スーパーリッチのライフスタイルを模倣すると資産を築くどころか経営を圧迫しかねない。真の成功には、準拠集団を見直し、見せるための消費を避け、資産を生む行動へとシフトする必要がある。収入より少ない支出を守り、r>gの原則を活かすことで、スモールビジネス経営者も堅実に富を築くことができる。(内田游雲)
内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者(特にスモールビジネス)に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
「金持ちになりたければ、金持ちのマネをすればいい」
よく耳にする言葉だが、これを鵜呑みにすると破産まっしぐらになる危険がある。特に、テレビや雑誌で華やかに取り上げられる“セレブ”は、いわゆる本物のリッチとは限らない。外車、グリーン車、別荘、高級ブランドに囲まれている人が、必ずしも資産を大きく増やしているわけではないのだ。むしろ借金漬けで首が回らない例だって珍しくない。
誤った金持ち像の落とし穴
そもそも、多くの人は「こういうお金の使い方をしたい」と思っても、そこへ至る土台がなく、どんどん消費ばかり膨らむ。結果として、実際の収入以上に出費する「見せるための消費」にハマり、経営者として大事なキャッシュフローが破綻していくケースが後を絶たない。
問題の根幹には、「金持ち」とは何かというイメージのズレがある。芸能界やビジネス界のスーパーリッチは、並外れた才能や運、そして時には莫大なリスクを負う勇気が支えている。だが、凡人がまねをすると、勢い余って破産一直線というオチになりやすい。実力を超えたマネをして、派手な出費を続ければ、どんな企業もあっという間に資金ショートしてしまう。
こうした落とし穴に陥らないためには、まずは自分のビジネス規模や成長段階に合った“現実的な金持ち像”を描くことが重要だ。無理にスーパーリッチごっこをするより、今の経営状況を冷静に見つめ、収入より支出を少なくする基本原則に忠実であるべきだろう。たとえば、大企業の社長が当たり前のように使う経費を、スモールビジネスの社長が同じように使っていたら、あっという間にキャッシュが底をつくのは火を見るより明らかだ。
華麗なイメージに踊らされるのではなく、会社経営をしっかり守り育てるための“地味な金持ち力”を養う。その姿勢がなければ、見た目だけの成功者ごっこで終わってしまう可能性が高い。背伸びをして豪華なライフスタイルを演出するほど、周囲には「儲かっていそう」に見えるかもしれないが、実態はむしろ危機的状況に陥るパターンが多いのだ。
大切なのは、“金持ちぶること”そのものが悪いのではなく、最初からバランスを欠いた状態でスタートするから問題が起きる点にある。身の丈と心の丈、両方をしっかり見極めながら、「あくまでビジネスを成長させる手段」として、正しい金銭感覚を磨いていくこと。それが、本当の意味での豊かさへの第一歩と言えるだろう。
仲間が決める成功と破綻
金持ちになりたい人が集まるセミナーに行ってみると、じつは参加者の多くが金持ちではない、という話はよくある。これは一見すると矛盾に思えるかもしれないが、実は「準拠集団」の大切さを物語る好例だ。準拠集団とは、普段あなたが交流し、一員だと感じる仲間のこと。人間の思考や行動は、この集団からの影響を色濃く受ける。
もし周囲がいつも「金がない」「景気が悪い」と嘆いてばかりなら、そのネガティブな雰囲気は自分のビジネスにも確実に伝染する。経営者である以上、日頃の会話や情報交換には特に気を配るべきだ。行き当たりばったりに知り合った人と飲みに行く回数を減らしてみるだけでも、意外と大きな変化を感じられることがある。
他人から否定的な言葉ばかり聞かされる環境では、「見せるための消費」に走ることでしか自尊心を保てなくなりがちだ。周囲に流されて頑張っているふりをすると、肝心のビジネスに必要な投資資金や運転資金が不足し、結果的に破産のリスクを高めてしまう。

逆に言えば、自分が憧れる先輩経営者や同業で成果を出している仲間とつながりを持つことで、新しいアイデアや前向きなマインドを得られる。これらが自社を伸ばす力となり、身の丈に合った金持ち像を形成する土壌を育ててくれる。
もしあなたがビジネスにおいて長期的な成功を志すなら、「準拠集団」の選定は避けて通れない。どんなに優秀な経営理論を学んでも、周囲が足を引っ張る人ばかりではうまくいかないのだ。ここで心得ておきたいのは、やみくもに人を遠ざけるのではなく、「同じ方向を目指せるかどうか」を基準に付き合う相手を選ぶということ。
誰といるかで人生が変わる、という言葉があるが、スモールビジネス経営者にとってはまさに死活問題に直結する。日々顔を合わせる相手を見直し、「自分はこの人と同じ土俵で闘いたいか?」と問いかけてみるのだ。周囲の雰囲気を変えるだけで、ビジネスを破綻から守り、大きく成長させる可能性が広がる。
リッチ vs スーパーリッチ
ここで押さえておきたいのは、世の中には「リッチ」と「スーパーリッチ」の2種類が存在するという点だ。よくメディアで豪邸や高級車を披露している人々は、その多くが“スーパーリッチ”として取り上げられる。芸能界や大企業オーナーのように、限られたトップ層だ。彼らのライフスタイルは、確かに派手な消費をしてもなお富を生み出す仕組みを持っているので、破産のリスクが相対的に低い(それでもゼロではないが)。
しかし、スモールビジネス経営者の大半が目指すべきは、このスーパーリッチではないはずだ。運も才能も揃い、かつ大きな市場で成功するごく一部の人たちの真似をすると、あまりにもリスクが高すぎる。見せるための消費ばかりになり、じりじりと資金繰りに追われて経営が傾くのがオチだ。
本物のリッチとは、実は外見的にはそれほど派手に見えない場合が多い。例えば、外車に乗らずとも運用益でコツコツと資産を積み上げ、しっかり自社の事業基盤を築いている経営者もいる。豪勢に見えなくても、ストレスなく生活しつつ、必要なときに必要な投資を行う懐の深さがある。こうした姿が本当の安定感を生み、「この会社はしぶとい」と評価されるのだ。
一方、スーパーリッチを気取るだけの人は、周囲を一瞬驚かせるかもしれないが、長続きしない。むしろ「投資家を装っているが実は借金だけが増えている」「派手なブランド品を披露しているが下請けに支払いが滞っている」など、裏側では悲惨な経営状況が起きているケースも少なくない。
大切なのは、“リッチ”を目指すか、“スーパーリッチ”を目指すかの選択だ。スモールビジネスの社長がスーパーリッチの生き方を無理に追うと、潜在意識まで「もっとお金を使わなければ成功に見えない」という誤ったメッセージで染まってしまう。消費の加速が激しさを増せば、いよいよ破産という名の崖へ一直線だ。
だからこそ、自分の事業規模と照らし合わせて、無理なく継続的に富を形成できる「リッチ」への道筋をイメージする。必要なときに必要な支出を行う一方、無駄を徹底的に減らし、地道に信用を積み上げるほうが、はるかに安定した経営スタイルを手に入れられる。
正しい手本の見極め方
学習の基本は、誰かの成功モデルをお手本にすることだが、そのモデルが「本物」かどうかを見抜く力が不可欠になる。周囲にいる“金持ちそうな人”が本当にリッチなのか、それとも見せびらかしているだけなのかを判断できなければ、誤ったロールモデルを追いかける危険が高い。
一つの目安は、その人が「どれだけ継続的に結果を出しているか」だ。スーパーリッチぶる人は、派手な新車を買ったり、高級クラブで豪遊したりと、一時的には目を引くかもしれない。しかし、長期的な視点で見ると、事業が伸び悩んでいたり、実際は資金繰りがギリギリだったりと、持続性のない経営をしているケースが少なくない。
反対に、本当のリッチは地味だが芯が強い。会社の規模自体は小さくても、時代の変化に柔軟に対応し、キャッシュフローを安定させ、少しずつでも資産を増やす仕組みを回している。口では大きなことを言わなくても、いざというときにはまとまった資金を投入して機会を逃さない“底力”があるのだ。

この“本物”と“偽物”を見分けるには、浮き彫りになる消費の仕方に注目するのも手だ。必要以上に外見を飾るだけの支出は「見せるための消費」に偏っている可能性が高い。一方、勉強や研究開発、社内体制の充実といった長期目線の投資に注力している人は、「資産を生む行動」へ意識を振り向けているはずだ。
さらに、どのような人脈を築いているかも重要だ。力のあるパートナーやクライアントから信用を得ている“本物”は、着実に成果を重ねながら、周囲とともにビジネスを拡大していく。その協力関係を築くまでには、派手なパフォーマンスよりも、地道な信頼づくりが必要となる。
スモールビジネス経営者が自社を長期的に守り成長させるためには、「自分の憧れの人は本当にリッチなのか?」と冷静に疑ってみる姿勢が肝心だ。人を見る目を養い、自分がどのモデルを参考にするのかを慎重に選ばなければ、痛い目に遭うことになる。
消費癖を絶つ資産形成術
スモールビジネスが危険に陥る要因の一つに「何となくの消費癖」がある。テレビで見るセレブに憧れて外見だけを整えようとすると、たちまち資金繰りに追われ始めるのが現実だ。ビジネスが成功する前にお金を使いすぎると、その後に回せる資金がなくなり、一時の見栄の代償として破産のリスクを高めてしまう。
経営者ならば、まず考えるべきは「会社を継続させるための資金確保」である。売上が伸び悩んでも最低限の固定費を賄える状況を作ることが重要だ。そこが盤石であれば、多少の経営環境の変化や不況が訪れても致命傷にはならない。結局、長く生き残れる企業こそ、着実に信用を積み重ねていくものだ。
消費癖を絶つには、「何のためにお金を使うのか」を明確にする必要がある。目的がハッキリしていれば、見せるための消費に走る前に踏みとどまれる。例えば、新製品の開発費や有望な人材の採用費などは、将来の資産を生む行動に直結すると言える。一方、高級スーツやブランド品を取り揃えるだけでは、「それって本当に売上や資産増に貢献するの?」という疑問が残る。
また、多くの小規模事業者にとって、「使うお金を収入より少なくする」原則を堅実に守ることは想像以上に効果的だ。外部からの借り入れに頼らず、自力で回る体制を築けば、債務リスクを抑えながら資金をコツコツ蓄えられる。その余力があるからこそ、新しいマーケットに挑戦する勇気も生まれるのだ。
さらに、「r>g」(資本収益率が経済成長率を上回る)という考え方を意識することで、資産を積み上げるスピードを高められる可能性がある。これは、お金をただ銀行に眠らせるのではなく、適切な投資や事業拡大に活用することで、より高いリターンを得られる場合があるという理論だ。もっとも、リスクコントロールを怠れば大きな失敗につながるので、自社の強みや事業領域をしっかり見据えたうえで計画的に行う必要がある。
以上のように、消費と投資をうまく仕分けし、見栄や衝動に振り回されないようにするのが資産形成の基本。スモールビジネスが堅実に飛躍するためには、派手な消費ではなく、長期的なリターンを得るための着実な行動へシフトすることが欠かせない。
現実的な豊かさへの指針
最後に、スモールビジネス経営者が本当に目指すべき“豊かさ”とは何かを考えたい。これまで述べてきたように、スーパーリッチのような豪勢な暮らしに憧れて無謀な出費をすれば、最終的には破産という結末が待ち受ける可能性が高い。一方で、“リッチ”を正しく理解して身の丈に合った戦略をとれば、地道にビジネスを成長させながら、必要なときに必要なだけお金を使える余裕を手に入れやすくなる。
この“現実的な金持ち像”を実現するためには、まず「見せるための消費」から「資産を生む行動」へシフトすることが不可欠だ。高級ブランドで周囲に威圧感を与えるよりも、顧客ニーズに応える商品開発やマーケティングにリソースを投入したほうが、はるかに効果的だというのは言うまでもないだろう。
さらに、潜在意識においても同じことが言える。金持ちのように振る舞うことは間違ってはいないが、それは「偽りの派手さ」を真似るという意味ではない。むしろ「経営者としての自信」や「将来にわたるビジョン」といった内面的な面を充実させることが、ビジネスの成功につながるポジティブなマインドセットを生む。

経営者にとって本当の豊かさとは、単に口座残高が増えるだけの話ではない。経営が軌道に乗り、社員や顧客との信頼関係が深まり、同業者や地域社会からも一目置かれる存在になること。それが長期的には売上増にも資産増にも結びついていく。大事なのは、そのプロセスを楽しむ心のゆとりと、必要なときに勝負できる財務基盤だ。
スモールビジネスは大企業に比べて弱い部分が多い反面、小回りの良さや個性を生かしやすい。拡大を志向しない選択肢もあれば、社員や顧客とともに成長する道もある。いずれにせよ、破産しないための資金管理と、周囲を巻き込みつつ前向きな流れに乗る柔軟性が求められる。
結局、派手な成功を目指すよりも、まずは堅実な基盤を築くことが先決だ。目の前の利益を派手に使い切るのでなく、将来に備えて蓄え、必要なときに投資する。その循環を回していくうちに、自分にとって本当に無理のないリッチへの道が見えてくるはずだ。そうして得た豊かさは、一時の自己満足や見栄に左右されることなく、長く安定したビジネスと人生をもたらしてくれるだろう。