
資本主義で成功するには、「r>g」、すなわち資本収益率が経済成長率を上回るというルールを理解し活用することが重要だ。労働収入よりも資本収入のほうが増加スピードが早く、格差の原因にもなっている。ビジネスを立ち上げて稼ぐ「g」の段階を経たら、資産に働かせて稼ぐ「r」へ移行するのが鍵である。スモールビジネス経営者も例外ではなく、経営を通じて資産形成を意識する必要がある。rを活かせるかどうかが、経営の自由度と未来を決定づける。(内田游雲)
内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者(特にスモールビジネス)に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
資本主義の世界において、もっとも重要なルールは何か。それは「r>g」という法則である。
フランスの経済学者トマ・ピケティが『21世紀の資本』で明らかにしたこの式は、資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回り続けるという不等式だ。
言い換えれば、働いて得る労働収入よりも、資本から得られる収入の方が長期的には大きくなるという現実を突きつけている。
資本主義の基本法則に気づけ
この「r>g」という法則は、たまたま最近の経済情勢で成立しているわけではない。ピケティは過去200年以上にわたる複数国のデータを調査し、長期的に資本収益率(r)はおおむね5〜7%で推移している一方で、経済成長率(g)は2%前後であることを明らかにした。
つまり、資産を保有していれば、それだけで年平均5〜7%のリターンが期待できるのに対し、給与やビジネスの成長は年2%のスピードでしか増えない。これが長期的に格差を生み出す最大の要因だ。
たとえば、1000万円を持つ人が年7%で運用すれば、10年で約2000万円、20年で約4000万円、30年で約7600万円、40年後には約1億5000万円近くになる。
対して年収500万円の人が毎年2%昇給しても、40年で得られる合計収入は約2億8000万円程度にとどまる。しかもこの金額は「働き続けた結果」であって、資産のように自動で増えるものではない。
つまり「何もしない資本」が「汗をかく労働」を圧倒的に上回ってしまうというのが、この社会の設計なのだ。
つまり、労働収入 < 経営収入 < 投資収入。
これがこの社会の本音であり、本質だ。にもかかわらず、私たちは学校でも社会でも、この真実に触れることなく育つ。一生懸命働くことが美徳とされ、投資はギャンブルのように語られ、資産を持つ者はずるいとされる。
だが、その幻想の裏で、rの世界で静かに、しかし確実に資本は増殖し続けている。これに気づけるかどうかが、分岐点になる。
そして、この「r>g」は単なる数字上の不等式ではない。これは、社会構造そのものを裏打ちする根本的な原理なのだ。
資本主義とは名前の通り「資本が主役」の社会である。資本を持つ者が勝ちやすく、資本を持たない者は這い上がるのに時間がかかる。だがそれでも、這い上がる道は用意されている。その入り口こそ、この「r>g」の本質を知ることである。
資本主義を2段階で這い上がる
資本主義を生き抜くには、2つの段階を経なければならない。
まずは金を稼ぐ段階。つまりgの世界だ。これは誰しも避けて通れない。ビジネスを立ち上げ、働き、収益を得る。
ここまでは多くの人ができる。しかし次に来るのが、稼いだ金を使って資産を構築し、金に金を稼がせる段階。これがrの世界であり、まさにこの切り替えこそが分水嶺だ。
この移行を果たせる者が、資本主義を味方につけられる。
逆に、いつまでもgの世界で汗を流し続けていれば、時間とともに格差は広がるばかりとなる。

しかもこのrの世界は金融経済という実体のない金の流れであり、GDPにも現れない。だからこそ、意識されることがない。ここにこそ、資本主義の非情なロジックが隠れている。
この2段階構造を理解しない限り、どんなに頑張っても「時間を売って稼ぐ」モデルから脱出できない。収入の限界は自分の時間に縛られる。
しかし、rの世界では時間を切り離し、資本が自動的に働いてくれる。これが自由の本質であり、同時に格差の正体でもある。
サラリーマンであれ、起業家であれ、最終的にはこのステージへ進む意志があるかどうかが分かれ目だ。
まずはrを知らなきゃ始まらない
r>gの世界では、資産を持つか持たないかで人生が変わる。仕事を通じて得られる収入の成長率が年間2%程度とされているのに対し、資本収益率は平均で7%近い。
仮に40年間この差が続けば、その差は絶望的なまでに開いてしまう。つまり、何もしなければ一生gの世界から抜け出すことはできず、富の集中を指をくわえて見ているだけになる。
この構造を変えるには、まずrの存在を知ることだ。そして、投資とは何か、資産とは何かを学ぶ必要がある。株、不動産、債券、事業投資・・・。いずれも資産を働かせる手段であり、労働とは異なる時間の使い方である。
資本主義社会で本当に生き延びようと思うなら、まずはこのゲームのルールを知ることがスタートラインになる。
ただし、ここで注意が必要なのは、rの世界にもリスクがあるということだ。何に投資するか、どのタイミングで参入し、どのように管理するか。これには知識と経験が不可欠だ。だからこそ、早く始め、少額から学び、資産運用の感覚を身につけておくことが重要になる。
「勉強してから始める」のではなく、「始めながら学ぶ」姿勢がrの世界への入口だ。
経営者もさっさとrに移行せよ
スモールビジネスの経営者も例外ではない。多くの経営者が「自分はgではなくrで生きている」と勘違いしているが、経営者であってもgであることがほとんどだ。
つまり、自分の時間と労力を差し出して売上を作っている限り、それはgであり、労働者となんら変わりはない。
経営を通じてrにシフトするには、利益を単なる生活費で使い切らず、資産に変える習慣が必要だ。
会社の売上を資産運用にまわし、不労所得を得る仕組みを整える。ここで初めて、経営者もgの世界から抜け出し、rの世界へと足を踏み入れることができる。

小さな会社ほど、この感覚を早く持つべきだ。たとえ事業規模が小さくても、資本の論理には誰もが参加できる。
たとえば、不動産を法人名義で所有する。売上の一部をインデックスファンドに毎月積み立てる。役員報酬からiDeCoやNISAを活用する。
こうした一つ一つが、gからrへと経営者を移動させるレールになる。経営が軌道に乗ったなら、事業を「現金製造装置」として見なし、その現金をどう動かすかにこそ、経営者の真の腕が試されるのだ。
マネーリテラシーが人生を分ける
資本主義は、知っている者だけに微笑む。
r>gという現実を理解し、それに沿った行動を取る者にだけ、富の流れが向かう。だからこそ、マネーリテラシーが重要になる。
金融の知識、投資の経験、そして何よりお金に対する健全な感覚。これらを持たずにこの社会を生き抜くことは、海図を持たずに航海するようなものだ。
多くの人がこの知識を持たない理由は簡単だ。
誰も教えてくれなかったからだ。教育でも、会社でも、メディアでも、この真実は語られない。なぜなら、全員がrに気づいてしまったら、この社会は成り立たなくなるからだ。
だから、目覚めた者だけが密かにその果実を味わえる仕組みになっている。スモールビジネスの経営者だからこそ、この果実をかじる側に立つべきだ。
そして、このマネーリテラシーは一度身につけば一生モノだ。家計の設計、事業の投資判断、老後資金の計画等々、すべての意思決定に「資本主義的視点」が差し込まれる。
自分がどこに金を使い、どこに置いておくか。それだけで結果が変わってくる。まさに知っているか知らないかが、生き方を分けてしまう。
資産の最大化こそ経営の目的
最終的にたどり着く答えはシンプルだ。
経営の目的とは、金を稼ぐこと。そして、それを資産に変え、ひたすら増やし続けること。言い換えれば、資産最大化こそが経営の本質である。
もちろん、そこに不快感を抱く人もいるかもしれない。「金の亡者だ」「社会貢献が大切だ」と言う人もいるだろう。しかし、そうした理想論では資本主義という名の大海原は泳ぎ切れない。
現実を見よう。
資本主義社会のルールは最初から決まっているのだ。だからこそ、経営者こそその仕組みを理解し、活用し、自らの資産を増やし続けなければならない。

最終的にrの世界へと移行できた者だけが、真に自由な人生を手に入れることができる。それがこの世界の現実であり、同時に希望でもあるのだ。
スモールビジネスの経営は、そのための最良の手段である。
資本主義は残酷だが、公平でもある。
誰にでもチャンスがあり、誰でも這い上がれる。その代わり、知らない者には情け容赦がない。だからこそ、r>gという真実に早く気づき、自らの経営と人生の方程式に組み込んでいくこと。
それが、スモールビジネス経営者にとっての最大の武器であり、生き抜く知恵なのである。