
割引クーポンは集客に見えて、実は利益を削り、得意客を遠ざける危険な手段である。特にスモールビジネスにとっては、「値引きしないと来ない客」を増やすことで、経営が消耗していく。来る予定だった客にまで無駄な値引きをしていることに気づかぬまま、数字に惑わされている店は少なくない。これからの時代は、安さで選ばれるのではなく、価値と信頼で選ばれる経営へ。価格を下げるより、あなた自身の魅力を磨くことが、唯一の生き残り戦略となる。(内田游雲)
内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者(特にスモールビジネス)に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
割引クーポンを使った集客は、スモールビジネス経営を確実に疲弊させ、利益を生まない仕組みになっている。
割引クーポンで儲からない理由
『「お客は来た。でもなぜか、苦しい・・・。』
飲食店、美容室、ネイルサロン・・・。どの業界も、販促といえばフリーペーパーやアプリに載せる「割引クーポン」が定番になっている。広告会社に数万円〜十数万円を支払い、無料配布される紙面にクーポンを添えて掲載する。これで新規客が数十人来れば「反応が良かった」と評価され、翌月も掲載を続ける。この流れが、いまも各地で繰り返されている。
だが、それで儲かったかというと、答えはNOだ。むしろ「お客は来たのに利益が残らない」と嘆く店のほうが多い。なぜか?その理由ははっきりしている。売上と利益は別物だからだ。
たとえば10万円の広告費で100万円の売上が上がったとしても、原価・人件費・値引き分を差し引けば、手元に残るのはわずか数万円。それに気づかず、広告を出し続ける店ほど、数字のトリックに振り回されてしまう。
さらに深刻なのは、クーポンが「一回きり」の来店を前提に設計されている点だ。価格だけで動く客はリピートせず、次は別の割引を求めて他店へ流れる。この「一見さん量産装置」ともいえる仕組みに、多くの小さな店が組み込まれてしまっている。結果、「集客はできてるのに、利益が出ない」という、矛盾した経営状態に陥ってしまう。
スモールビジネスは、大手と違って「体力で勝負」はできない。だからこそ、来店数よりも「利益の質」に目を向けなければならない。割引で集めた人の数よりも、割引せずに通ってくれる人の存在こそが、真の資産なのだ。
小さな会社は割引をやめよ
『安さで選ばれるうちは、選ばれていない。』
無駄な値引きは経営リスクを高め、固定客を失いながら集客費用だけがかさむ最悪の戦略である。
よくある光景がある。居酒屋に行こうと友人と話しているうちに、「この店にしよう」と決めた後、スマホやフリーペーパーをめくってクーポンを探す。見つけたら「やった!」とばかりに、それを握って入店する。たとえば生ビール1杯無料のクーポンなら、4人で2,400円分がタダになる。
ここで気づいてほしい。このお客たちは、クーポンがなくてもその店に行くと決めていたという事実に。つまり、割引などしなくても売上になっていた相手に、わざわざ値引きをしてしまったということだ。経営者から見れば“しなくてよかったはずの出血”が発生したわけで、これは損失そのものだ。

この「本来なら定価で売れたはずの売上を、自ら値引く」という現象は、想像以上に恐ろしい。1日5組で2,000円ずつの損失があれば、月で30万円。しかもこれは売上の話ではなく、利益がその分そっくり消えるという話だ。小さな店にとって月30万円の赤字補填は重すぎる。
割引を使えば、お客が“増えた気”になる。だが実際は、「来る予定だったお客」に値引きをするか、「一見さん」に一度だけの値引きをするか、どちらにせよ損が増えるだけで、得意客は育たない。むしろ、値引き目当ての客が常連にならない分、店の空気まで変わっていく。
だからこそ、小さな会社は値引きをやめるべきだ。値段で選ばれるうちは、次にもっと安い店が出た瞬間に負ける。価格競争ではなく、「この店がいい」と言われる価値を育てていくことが、本当の強さになる。
割引が経営を壊す3つの理由
『値引きの先に、あなたの未来はない。』
割引クーポンによる集客失敗の本質は、固定客が離れる構造と、広告効果の錯覚にある。
割引がすべての問題の根源だと言うつもりはない。けれど、小さな会社にとっては、割引が“静かに店を壊していく”最も危険な行動になりやすい。なぜなら、経営を揺るがす要因が、値引きの裏にいくつも潜んでいるからだ。
まず第一の理由は、「値段で来る客は、値段で去る」という現実だ。クーポンやセール情報を頼りに店を選ぶ人たちは、他の選択肢があればすぐにそちらへ移る。要するに、あなたの店に通いたいのではなく、安いから来ているだけ。だから1回きりで終わる。そんな客ばかりが増えても、ファンは生まれない。
二つ目は、「来る予定の客に、無駄な割引をしている」こと。すでにその店に行く気だったのに、あとからクーポンを見つけて使った――そんな行動、あなた自身にも覚えがあるはずだ。これこそが、経営者が気づかぬ“隠れ赤字”の最大要因である。値引きする必要がなかったのに、自分で利益を削ってしまっているのだ。
そして三つ目が、最も見過ごされがちな問題、「得意客が離れる」ことである。割引クーポンを多用しすぎると、常連やファンがこう思う。「いつも来ている私には何の得もないのか」と。公平感が損なわれた瞬間、信頼は静かに崩れ始める。 一度離れたファンは、そう簡単には戻ってこない。
このように、割引の裏には、数字に表れない致命的なリスクが潜んでいる。目先の売上に目を奪われているうちに、長く通ってくれていたお客が離れ、利益が薄れ、店の魅力までもすり減っていく。これが「割引の麻薬性」とも言える経営崩壊の構造だ。
価格でなく価値で選ばれる店
『“この人だから”で選ばれる幸せ。』
スモールビジネスの集客戦略は、値引きによる消耗戦ではなく、価値提供と関係性構築が鍵となる。
価格を武器にして勝てるのは、資本と規模を持つ大手企業だけだ。小さな店が同じ土俵で戦えば、遅かれ早かれ潰される。それよりも、自分だけの「価値」で選ばれること。それが、スモールビジネスにとって唯一無二の生き残り戦略になる。
たとえば、こんな店がある。決して安くはないが、店主のこだわりが随所に光るカフェ。コーヒーの産地説明から、豆の焙煎法、手書きのメニューカードまで、訪れた人は“この空間と人柄が好き”で通い続けている。ここには割引クーポンも値引きセールも存在しない。それでも客足は絶えない。

なぜか?それは、価格ではなく体験と信頼にお金を払っているからだ。「この人が淹れてくれるから飲みたい」「この空間にまた来たい」――この“共感”こそが、スモールビジネスが持つ最大の武器である。
割引クーポンは、価格で選ばれるための道具だ。しかし、価値で選ばれる店は、割引を必要としない。そこには、来店動機がすでに存在している。人は、感動した店を覚えていて、感謝したサービスをまた受けに来る。
関係性の深さが、そのまま経営の安定につながる。たとえ派手な広告を打たずとも、「あの人の店なら間違いない」と思ってもらえる状態をつくることができれば、それは誰にも奪えない強みになる。
値段で比較されることなく、「あなたの店が好き」と言ってもらえる。そんな経営こそが、小さな店の未来を明るくする道なのだ。
割引より魅力で生き残る方法
『値引きをやめた瞬間、本当の経営が始まる。』
割引しない集客法こそが、小さな店が生き残るための現実的で持続可能な経営戦略である。
「安くすれば売れる」は幻想にすぎない。それよりも、「なぜこの店をやっているのか」「どんな人に来てほしいのか」という原点に立ち返ることが、小さなビジネスを長く続けるカギになる。魅力を磨く経営にシフトすれば、割引という武器は必要なくなる。
まず見直したいのは、“誰にでも来てほしい”という姿勢だ。客を選ばない姿勢は一見正しく思えるが、実は店の色を曖昧にしてしまう。「この人に来てほしい」「この価値が伝わる人にだけ届けばいい」という明確なビジョンこそが、独自性となり、価格ではなく共感で選ばれる経営につながっていく。
そのためには、自分の強みやこだわりを言葉にして伝えることが大切だ。たとえば、仕入れ先への想いや技術への誇り、お客さんとの物語など、“割引以外の魅力”をきちんと可視化して伝える努力が必要になる。SNSやブログ、ちょっとしたチラシの一言にも、そうした思いを込めるだけで、共感は広がっていく。
そして何より大切なのは、今すでに来てくれているお客を大事にすることだ。新規を追うあまり、常連さんの気持ちをないがしろにしていないだろうか?得意客は、ただの売上ではない。その人との信頼関係こそが、将来の紹介や繁栄を生む源泉になる。
もう値引きに頼る必要はない。派手な広告や特典がなくても、「ここに来たい」と思ってもらえる店には、ちゃんと理由がある。それは、価格ではなく“あなた”という存在の魅力だ。そこに気づけたとき、本当の意味で“生き残る”経営が始まる。
割引クーポンは一見便利な集客手法に見えるが、小さな会社にとっては利益を削り、得意客を失い、経営の土台を揺るがす危険な賭けである。目先の売上ではなく、価値と信頼で選ばれる店づくりこそが、スモールビジネスが長く豊かに生き残るための現実的な戦略である。価格ではなく「あなた自身」の魅力を届けることが、これからの経営を強くする唯一の道になる。