スモールビジネスに欠けているのは戦略家の存在だ

優れた戦略家を得た者が経営を飛躍させる

スモールビジネス経営には戦略家(ストラテジスト)の存在が不可欠である。桃太郎理論によれば、営業の犬、開発の猿は揃っても、全体を俯瞰し勝ち筋を示すキジ(軍師)がいなければ事業は伸び悩むことになる。その上、社内で軍師を育てるのは難しく、外部のコンサルタントが現代の軍師として機能する。三国志の諸葛孔明のように、優れた戦略家を得た者が経営を飛躍させる鍵を握る。10年後を見据えるなら、あなたの会社にも戦略家が必要になる。(内田游雲)

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内田游雲(うちだ ゆううん)

ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者(特にスモールビジネス)に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
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小さな会社や個人事業が商売を繁盛させようとするとき、経営者がどんなに努力しても成果が伸び悩む場面が出てくる。たとえば、社長が営業活動を率先して頑張っても、組織全体がまとまらなければ、大きな飛躍につながりにくい。そこには“全体最適”を考える視点が不足している可能性がある。

小さな会社に戦略家が必要なのか

ここで注目したいのが「桃太郎理論」だ。昔話の桃太郎には、主人公である桃太郎のほかに、犬、猿、そしてキジが登場する。この理論では、彼らが物語の中で発揮している役割をビジネスの人材構成に当てはめて考える。

桃太郎(社長)
会社の顔でありビジョンを掲げる存在。鬼退治という荒唐無稽にも見える大きな目標を打ち出し、躊躇せず行動を起こすリーダーシップを体現している。社長はこの桃太郎役を担い、組織全体を率いる。

犬(突撃部隊)
桃太郎に最初に加わった仲間であり、戦闘力と忠誠心が高い。ビジネスでいえば、営業部隊や前線で顧客とやり取りするチームを指すことが多い。上からの指令に対して「よし、やってやろう!」と気合を入れて突撃するのが犬の魅力だ。

猿(クリエイティブ部隊)
次に仲間に加わった猿は、器用さと発想力が特徴。戦闘では工兵部隊のような役割を担い、河を渡るための船や、城壁を破るための仕掛けを作る存在と位置づけられる。ビジネスにおいては、商品開発や広告宣伝などのクリエイティブ分野を担うことが多い。ただし気分にムラがあり、ビビりな面もある。そこをいかに活かすかが重要だ。

キジ(戦略家=軍師)
最後に仲間になったキジは、見た目は地味で攻撃力も目立たない。しかし情報収集と分析、そして全体を俯瞰して作戦を立案する能力を持つ。物語の設定では、空を飛んで偵察できると考えるとわかりやすい。ビジネスでは戦略家(ストラテジスト)、いわば軍師として機能する。

多くの小さな会社は、最初の犬と猿まではなんとかそろうことが多い。営業や開発・クリエイティブの人材は、比較的探しやすいからだ。だが“キジ”の役割を担える人材は非常に少ない。会社を伸ばすうえで重要なのは、このキジをどう確保し、どのようにしてその力を引き出すかにかかっている。

戦略なき戦術は犬死にに終わる

桃太郎理論のキジ(軍師=ストラテジスト)がいない状況は、まさに「戦術ばかりあって戦略がない」状態を引き起こす。三国志の主人公である劉備も、関羽や張飛、趙雲といった超一流の武将を従えながら、長いあいだ“勝ち切れない”時期があった。個々の戦闘では勝利しても、天下統一まで届かなかったわけだ。

この状況を一変させたのが、諸葛孔明という軍師の登場だった。孔明は「天下三分の計」を打ち出し、魏・呉・蜀という三国を均衡させて戦乱を収束させようとする戦略を立てた。つまり、部分的な戦術の組み合わせだけではなく、「これからどう世界を変えていくか」という大きなシナリオを描いたのだ。

戦略が不十分だと苦しい結果が待っている

ビジネスでも、営業のやり方や広告手法などの戦術にばかり意識が向きがちだ。SNS活用やITツール導入を急いでも、どの市場で勝負し、どこを狙うべきかが定まっていなければ、頑張りの割に成果が伸びにくい。これは桃太郎理論でいうところの犬や猿だけが張り切っても、周囲を見渡すキジがいない状態と同じだ。

キジは空から敵陣を偵察し、隊の進むべき道を指し示す役割を果たす。すなわち、戦い方を決めるのが戦略であり、その戦略を実行するための具体的行動が戦術だ。どれだけ魅力的な戦術を駆使しても、土台となる戦略が不十分だと、最後は苦しい結果が待っている。桃太郎が犬と猿を犬死にさせずに済んだのは、キジが加わって全体像を描けたからこそだ。

なぜ会社には軍師がいないのか?

桃太郎理論を意識すれば、「キジを雇えばいい」と単純に考えるかもしれない。ところが、キジ(ストラテジスト)を探しても、社内で育てるのは至難の業だ。なぜなら、戦略家には幅広い知識と経験、そして冷静な分析力と未来を読む洞察力が求められるからだ。

三国志の時代には、諸葛孔明のほかにも名軍師がいた。曹操には荀彧(じゅんいく)や郭嘉(かくか)、孫権には周瑜がいた。日本の戦国時代を見ても、武田信玄には山本勘助、豊臣秀吉には竹中半兵衛や黒田官兵衛がいた。いずれもやすやすと育成できる人材ではなく、天賦の才や多彩な経験を持ち、トップから一目置かれた人物ばかりだ。

スモールビジネスが苦労するのは、こうした超レアな人材を企業内部で養成するリソースがそもそもない点にある。営業部門のリーダーや開発チームのエースが成長するのとはわけが違う。全体を俯瞰して長期的な方針を定めるスキルは、現場の実務に追われる日々の中では身につきにくい。

さらに「社長の右腕」に近い存在は作れたとしても、右腕が必ずしも軍師になるわけではない。右腕は会社の実務を効率よく回し、社長の負担を軽減する役目が強い。だが“常に大きな視点で世界を見渡し、勝てる道を示す”という戦略家の本質にまではなかなか到達しない。結果として、犬と猿だけはそろっても、キジだけがいないという状態が生まれる。

戦略家不在がもたらす経営の限界

軍師(ストラテジスト)がいない状況では、小さな会社が最初の3~5年は勢いで走れたとしても、その先で壁にぶつかりがちだ。データを見ても、創業から五年以内に廃業や休業に追い込まれる会社はかなりの数にのぼる。この現実の背景には、戦略を定められないまま経営資源を消耗し尽くしてしまう問題がある。

たとえば、営業にリソースを集中しすぎて疲弊し、肝心の商品開発が追いつかないケース。あるいは、画期的な商品ができてもマーケットの選定を誤り、売上に結びつかないケース。どちらも戦術レベルでは頑張っているが、戦略が曖昧なまま突き進んでいるために生じる悲劇だ。

三国志における劉備も、諸葛孔明を得る前までは強い武将をかき集めては戦い、勝ったり負けたりを繰り返していた。しかし「どこで地盤を固め、どう勢力図を描くのか」という大枠がなかった。結果として各地を転々とし、うだつが上がらないまま放浪を続けるという展開に陥った。これと同じことが現代のビジネスの現場でも起こりうる。

戦略を描く人がいないと、社員やスタッフは各自の持ち場でベストを尽くすが、組織全体が示し合わせたように動かない。いわば舟を漕ぐ人がバラバラの方向を向いている状態だ。ここで必要なのが、船頭の桃太郎とは別に、状況を俯瞰し航路を決めるキジの視点だ。もしキジがいないままなら、いずれ会社の成長に限界が生じるのは避けられない。

現代の「軍師」はコンサルタント

では、スモールビジネスが軍師を得るにはどうしたらよいのか。最も現実的な方法は、外部のコンサルタントを活用することだ。コンサルタントの正体こそ、現代版の軍師(ストラテジスト)だといえる。社内ではなく社外に目を光らせているからこそ、客観的なアドバイスを提供できる。

たとえば、「あなたの会社の強みはここにある。だから主力商品はこっちにシフトすべき」と冷静に提案してくれる。社長が目の前の業務や社内事情に縛られがちなときでも、外部の視点で市場を分析し、競合の動きや顧客ニーズを総合的に判断してくれるのがコンサルタントの利点だ。

もちろん、コンサルタントに玉石混交の側面があるのも事実だ。理論だけはご立派だが、実践的な提案ができないケースもある。そこで重要なのは、軍師型コンサルタントを見分けることだ。桃太郎理論でいうキジのように、偵察力と分析力を兼ね備え、大局を示せる人かどうかをしっかり見極めたい。

うまく軍師型コンサルタントとタッグを組めば、社内の犬(営業)や猿(開発・クリエイティブ)が一気に活性化する可能性が高い。それまで無駄打ちしていたり、方向性を見失いがちだったリソースを、戦略的に配分できるようになるからだ。つまり“戦術の暴発”を防ぎつつ、確実にゴールを狙える布陣へ切り替わる。勢いのある桃太郎(社長)と軍師が連携できれば、鬼ヶ島攻略の道が見えてくる。

キジがいる会社だけが生き残る

最後に、「キジを得る」ことが会社の未来にいかに影響するかを考えてみる。スモールビジネスの経営環境は、目まぐるしく変化している。10年前には想像もつかなかったテクノロジーや社会情勢の変化が起こり、5年後の景色すら予測が難しい時代だ。そんな混迷の時代にこそ、外部や全体を俯瞰する力が求められる。

桃太郎理論で犬・猿・キジがそろうとき、組織は大きく飛躍する可能性を秘めている。犬は元気いっぱいに前線で戦い、猿はユニークな発想で仕事の幅を広げ、キジはその全体を見ながら作戦を調整する。桃太郎(社長)はリーダーとして旗印を掲げ、チームにエネルギーを与え続ける。何より、全員が自分の役割を理解し、“どこに向かうか”を共有することで組織力が高まる。

経営者自身が桃太郎であると同時にキジの役割も兼任できれば理想的だが、それは現実には極めて難しい。だからこそコンサルタントという社外の力を借りる選択が浮上する。戦略家の視点を借りることで、社内に戦略思考が浸透しやすくなるメリットもある。

歴史上の軍師も、それぞれの王や大名のもとに参画し、大局を示すことで組織を強くした。諸葛孔明が蜀を支え、周瑜が孫権を助け、山本勘助や黒田官兵衛が主君を勝利に導いた。スモールビジネスでも同じだ。キジの役割を手に入れた会社だけが、時流の荒波に飲まれず次の10年を生き抜くことができるだろう。

軍師が加われば大きな飛躍が見込める

桃太郎理論は、ビジネスをわかりやすく物語に当てはめて考えるフレームワークとして有効だ。桃太郎(社長)、犬(営業・突撃部隊)、猿(クリエイティブ・工兵部隊)、そしてキジ(軍師・ストラテジスト)の4者がそろうことで、組織は力強く成長する。だが実際は、犬と猿まではそろえられても、キジを社内に育てるのは至難の業だ。

そこで、歴史上の軍師たちのような役割を果たすのが、現代のコンサルタントである。社外の視点から経営を俯瞰し、大局観をもって戦略を示す。もしビジネスが伸び悩んでいるなら、会社や組織の「キジ不在」を疑ってみるといい。経営者が雇用や社内育成だけに固執せず、外部の力を上手に取り入れることで、桃太郎理論における最強の布陣を完成させられるかもしれない。

三国志の劉備が諸葛孔明を得て蜀の王にまで登りつめたように、ビジネスでも軍師が加われば大きな飛躍が見込める。逆に言えば、いくら腕の立つ社員がいても、戦略家(ストラテジスト)がいない組織は行き詰まる可能性が高い。あなたの会社も、10年後の生存をかけて“キジ”の存在を見直してみることだ。スモールビジネスこそ、戦略家というキジを意識して経営に取り組むことが、長期的な生存と飛躍への道につながるだろう。

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