
経営は人生設計そのものであり、ただ売上や利益を追うだけでは幸福にはならない。QOL、すなわち「生活の質」を経営指標に据え、自分がどれだけ満ち足りた人生を送れているかを基準にすることが、スモールビジネス経営者には必要だ。仕事、経済状況、健康、感情、人間関係、知識の6分野から人生の質を具体的に見直し、拡大路線ではなく適正規模と心地よさを優先する。人生を犠牲にしない経営が長続きの秘訣である。(内田游雲)
内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者(特にスモールビジネス)に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
「商売は成功しにくく失敗しやすい」
この冷徹な現実を直視することから経営は始まる。多くの経営者が売上や利益だけを指標にして迷走するのは、人生の目的があいまいだからだ。そもそも、何のためにビジネスをしているのか。自分がどんな人生を送りたいのか。ここをはっきりさせないまま数字だけ追いかけても、たいてい疲れるか、潰れるか、どちらかである。
人生の目的を経営指標に組み込む
QOL(Quality of Life)とは、一般に『生活の質』と訳される。自分がどれだけ幸福を感じられるか、どれだけ満ち足りた人生を送れているかを示す指標だ。これは決して他人との比較で決まるものではない。あくまで自分自身の内側から湧き上がる満足感と充実感が基準となる。
ただ、「幸福」と言われても何を指すのか今ひとつピンとこない人もいるだろう。そこでQOL(Quality of Life)をもう少し具体的に考えるために、次の6つの分野に分けて整理してみたい。
1. 仕事(金を稼ぐこと)
2. 経済状況
3. 健康
4. 精神性・感情
5. 人間関係・家族関係
6. 知識・教育
これらがどれくらい満たされているかが、あなたの人生の質そのものだ。これを無視して経営することは、人生の土台がぐらついたまま家を建てるようなもの。見栄えはよくても、いずれ崩れる。
経営とは人生設計そのものである。仕事が生活の大部分を占める以上、人生の目的と経営の目的を分けて考えることはできない。だからまず、「どう生きたいか」を指標にしなければ、何を選び、何を捨てるかの判断基準ができない。どれだけ儲かるかよりも、どれだけ満足して生きられるか。この発想の転換が、スモールビジネス経営者には必要だ。
ビジネスは人生を楽しむための道具であって、人生を犠牲にするためのものではない。経営指標にQOL(Quality of Life)を据えることで、仕事は苦行ではなく道楽になり、続けるほどに味わいが増す。経営者の最も大切な仕事は、人生の目的をはっきりさせ、それを基準に経営を設計することだ。
お金を指標にすると人生は崩れる
多くの経営者が陥る罠は、「売上が増えれば人生もうまくいく」という思い込みだ。しかし、現実には売上が増えても心がすさみ、家庭が壊れ、体を壊す経営者が後を絶たない。なぜか。そこにQOL(Quality of Life)の視点がないからである。
確かにお金は大事だ。しかし、金は目的ではなく手段でしかない。必要なだけあればそれでいい。それ以上は、いかに心地よく、いかに楽しく、いかに満足して生きるかが問われる。売上や利益だけを経営指標にすると、どうしても「もっと、もっと」となり、際限のない拡大路線に巻き込まれてしまう。

生活の質を犠牲にしてまで拡大を目指すことに意味はない。むしろ「どこまでなら快適か」「どこからがストレスか」を知り、その範囲内で経営するほうが長持ちするし、何より自分が潰れない。スモールビジネスにとっては、この「適正規模」を見極めることが何より大切だ。
経営指標に「心地よさ」や「満足度」を加えることは、甘い話でも夢物語でもない。これはれっきとした経営戦略である。数字だけの指標では判断できないものを、きちんと可視化する。たとえば、「週に何回休めているか」「誰と仕事をしているか」「どれだけ自由な時間があるか」など、自分の心が喜ぶ項目を指標にするのだ。
経営は数字のゲームではない。人生を豊かにする手段である。そのためには、お金だけを指標にせず、自分のQOL(Quality of Life)を守るための設計が必要だ。
QOLを上げる時間設計と仕事設計
スモールビジネス経営者が最も自由にできるのは、自分の時間と仕事の設計だ。この特権を使わずして何のための経営者か。にもかかわらず、気がつけば朝から晩まで働きづめ、休日も仕事に追われ、家族との時間もない。これでは会社に雇われているのと何も変わらない。自由業なのに不自由。これが、経営指標にQOL(Quality of Life)の視点がない人の末路である。
時間は命そのものだ。どれだけの時間を自分の好きなことに使えているか。それがQOL(Quality of Life)の最も大きな要素になる。逆に言えば、どれだけ「やらなくていいこと」を減らすかが勝負になる。必要のない仕事、やりたくない仕事、無駄な打ち合わせ、意味のない雑用。これらを削っていくことが、生活の質を上げる第一歩だ。
「やらないことリスト」を作るのは、時間設計の基本中の基本である。忙しさを美徳とする経営は長続きしない。大切なのは、何をするかではなく、何をしないかの選択だ。この選択を誤ると、どれだけ仕組みを整えても、どれだけ儲かっても、経営者本人が疲れ果ててしまう。
スモールビジネスの強みは、小回りが利くこと。大企業のように多くの人を抱え、多くの案件を抱える必要はない。好きな仕事だけを選び、合わない仕事は断る。そのためには、自分が何を大事にしているのかを知っておかなければならない。
時間設計と仕事設計は、QOL(Quality of Life)を守るための最重要ポイントである。人生の目的から逆算して、どれだけ働き、どれだけ休み、どれだけ遊ぶか。それを決めるのは他人ではない。あなた自身だ。
人間関係をQOLの中心に据える
誰と仕事をするか。それは、売上や利益以上に、経営者のQOL(Quality of Life)を大きく左右する要素だ。嫌な相手と無理に付き合うのは、仕事だけでなく人生そのものの質を下げる。スモールビジネスの強みは、顧客も取引先も「自分で選べる」自由があることだ。この自由を手放してしまえば、社長業はたちまち苦行になる。
「お客様は神様」と唱えて、自分をすり減らしている経営者は多い。しかし、顧客と経営者は対等であるべきだ。対等であってこそ、誠実な取引関係が成り立つ。理不尽な値引き要求や無理難題を押し付けてくる相手と、わざわざ付き合う必要はない。むしろ、そうした相手は丁重にお引き取り願ったほうが、あなたのQOL(Quality of Life)は守られる。

仕事は「誰とやるか」で決まる。それは単なる人間関係の話ではない。あなたの精神的な安定、感情の安らぎ、さらには健康にも直結する重大な経営課題である。どんなに儲かる話でも、付き合う相手によっては命を削ることになる。この判断を誤れば、経営が崩れるだけでなく、あなた自身も壊れる。
だからこそ、「信頼」と「尊重」を指標にすることが大切だ。この相手と一緒に仕事をして楽しいか。気持ちよく働けるか。困ったときに支え合えるか。この感覚を無視して「数字がいいから」と仕事を続けると、QOL(Quality of Life)は簡単に崩れていく。逆に、いい人間関係は、あなたの心を安定させ、ビジネスを長持ちさせる栄養となる。
スモールビジネスは、しがらみに縛られない経営ができる。その特権を生かし、「誰と、どんな関係で働くか」を経営指標に加えること。それが、QOL(Quality of Life)経営の基本である。
経営者自身の健康と成長こそ土台
スモールビジネスにおいて最も大切な資本は、他でもない経営者自身だ。自分の身体と心を犠牲にしてまで続ける経営に未来はない。どれだけ仕組みが良くても、社長が倒れたらすべて終わりだ。だからこそ、健康と成長こそがQOL(Quality of Life)経営の土台になる。
健康を失った経営者は、どれほどの利益を上げても幸せになれない。腰が痛い、眠れない、ストレスで胃がキリキリする。そんな状態では、仕事も楽しめず、判断も鈍る。毎日全力疾走して息切れしている経営者ほど、この視点が抜け落ちている。人生は長距離走。息切れしないペース配分が必要だ。
経営者は学び続ける存在である。新しい知識、新しい視点に触れ、自分自身が成長し続けること。その積み重ねが、会社の質を自然と底上げする。年齢を重ねるほど、学びが楽しみに変わる。この楽しみを持ち続けているかどうかが、QOL(Quality of Life)の高さを左右する。
忘れてはならないのが、感情の安定である。どんなに頭で理解していても、心が乱れていれば経営判断は狂う。イライラや不安、焦りは判断力を奪い、周囲の信頼も失わせる。感情を安定させるためには、しっかり休み、遊び、リフレッシュすることが欠かせない。無理をしすぎず、無茶をしない。これは経営者の義務である。
自分を労わることは、単なる甘えではない。経営の成果に直結する立派な仕事だ。健康で、心が安定し、成長を楽しんでいる経営者ほど、事業はうまくいく。その逆は、いくら頑張っても続かない。まずは自分を整えること。これこそがQOL(Quality of Life)を指標にした経営の土台である。
QOLを経営指標にする実践方法
QOL(Quality of Life)を経営指標にする、と言っても、ただ「好きなことをして生きる」というだけでは絵に描いた餅だ。指標とは、判断の基準であり、行動の軸になるもの。これがなければ、どこに進むかも決められず、経営の舵取りは迷走する。
まず考えたいのは、「数字以外の指標をどう設定するか」ということだ。売上や利益はもちろん大切だが、それだけではQOL(Quality of Life)の視点が抜け落ちる。たとえば、「週にどれだけ休めているか」「家族とどれだけ一緒に過ごせているか」「学びや遊びにどれだけ時間を割けているか」といった項目も、れっきとした経営指標になる。

そこで役立つのが「やりたいことリスト」と「やらないことリスト」だ。やりたいことを明文化し、逆に「やりたくないこと」や「無理が生じること」をあらかじめリストアップしておく。このふたつを見比べることで、日々の選択が格段に楽になる。何かを決めるたびに「これはQOL(Quality of Life)を上げるか? 下げるか?」と問い直す習慣を持つことがポイントだ。
スモールビジネスは、小さくても豊かに生きる戦略が必要だ。大企業のように量で勝負するのではなく、質で勝負する。無理な拡大は目指さず、自分と相手が心地よく続けられる範囲を守る。そのためには、欲張りすぎない設計が不可欠である。
最後に、自分自身に問うべきシンプルなチェックリストがある。「今の経営は、自分の人生を豊かにしているか?」この質問に素直に答えられるかどうかが、QOL(Quality of Life)経営の成否を分ける。数字だけでなく、満足度や楽しさ、自由度を指標に加えることで、あなたのビジネスはもっとしなやかで、もっと長く続けられるものになる。
経営は人生を犠牲にするためのものではない。むしろ人生を豊かにするために、経営がある。この視点を忘れずに、あなたらしい経営指標を築いてほしい。