「お金を手に入れる」には、時間や自由、健康、人間関係など大切な要素を犠牲にするリスクがある。一方で、お金は生活や将来の安心に不可欠であり、適切に活用すれば人生を豊かにできる。計算できる数値面と潜在意識に根ざす感情面の両方を見極め、自分が本当に望む生き方とのバランスを保つことで、真の幸福をつかむことが可能となる。お金は目的ではなく、人生を支える道具なのだ。(内田游雲)
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内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
「お金を手に入れる」という言葉は、現代社会に生きる私たちにとって大きなテーマである。
食べ物や住まいといった生活必需品をまかなうためはもちろん、趣味やレジャーを楽しむためにも、お金は不可欠な存在だ。さらに将来の安心や、自分らしい生き方を実現するためにも「お金を手に入れる」ことは重要な課題となる。しかしその一方で、お金を手に入れるためには必ず何らかのコストが発生している。それは時間や自由、健康、人間関係など、私たちにとって最も大切な要素であることも多い。
お金を手に入れるために支払っている代償やお金の持つ二面性、そしてお金と幸福のバランスになどのお金に対する向き合い方を見直すことで、より自由で幸福な人生を築くヒントを得ることができるだろう。
お金を手に入れるためのコスト
「お金を手に入れる」と一口に言っても、その方法は千差万別だ。会社や組織で働く人もいれば、個人でビジネスを立ち上げる人、投資によってリターンを得る人もいる。しかし、いずれの方法を選んだとしても、お金を手に入れるには必ず何らかのコストを支払っている。たとえば会社勤めであれば、決められた就業時間と引き換えに給与を受け取る。自営業やフリーランスなら、案件を獲得するための営業活動や実務時間というコストが発生する。
ここで意識したいのは、それらのコストが意外にも大きいという点だ。自分がどれだけ時間を費やし、自由を手放し、場合によっては健康や人間関係を犠牲にしているのかを正確に把握している人は少ないのではないだろうか。お金を手に入れること自体は悪いことではないが、どの程度のコストをかけるのかを把握せずに突き進めば、後々「こんなはずではなかった」という結果に陥る可能性もある。
時間という交換レート
お金を手に入れるために支払うコストの中でも、最も分かりやすく、かつ最も大きいのが「時間」である。会社員であれば1日8時間、週5日というパターンが一般的だが、残業や休日出勤などでさらに時間が増えることも少なくない。フリーランスであっても、締め切りに追われて長時間労働を余儀なくされる場合がある。
興味深いのは、「あなたにとって一番大切なものは何か?」という問いかけに対して、多くの人が「自由な時間」と答えている点だ。実際、ある調査ではその割合は67%にも上るのに、「お金」が最も大切と回答した人は13%にとどまった。私たちは頭では「時間こそが貴重」と感じているはずなのに、「お金を手に入れる」ために大量の時間を犠牲にするという矛盾を抱えている。この交換レートが自分にとって妥当なのかどうか、定期的に振り返る必要がある。
自由を失うジレンマ
多くの人は、「お金を手に入れることで、より大きな自由を得られる」と信じている。たとえば、旅行に行く費用や好きなものを買うためには、ある程度のお金が必要だ。しかしその過程で長時間労働や過剰な働き方を強いられ、肝心の自由を楽しむ時間を失っているケースは珍しくない。
会社や組織に勤めていれば、勤務日数や勤務時間といった制約を受ける。フリーランスでも、複数のクライアントを相手にしていると、受注量によっては自由に動ける時間が激減してしまう。結果的に「自由を得るためにお金を手に入れるはずだったのに、気づけば自由を奪われている」というジレンマに陥るのだ。これが長期間続けば、心身の疲労やストレスも増大し、ますます本来望んでいた自由から遠ざかってしまう。
健康との引き換え
「お金を手に入れる」ために、時間や自由だけでなく、健康を犠牲にする人も多い。日本ではかつて「過労死」という言葉が社会問題として取り上げられたが、そこまで極端ではなくとも、長時間労働による睡眠不足やストレスは、多くの人が日常的に抱えている課題といえる。
さらに仕事のプレッシャーや人間関係から、不安やうつなどの精神的な不調が増加している事実も見逃せない。体力やメンタルが崩れてしまえば、やりたいことを楽しむ余裕は生まれにくい。せっかくお金を手に入れても、体が動かない、気力が湧かないのでは、充実した日々は望めない。健康を失うリスクを考慮せずに働きすぎるのは、まさに本末転倒と言わざるを得ない。
人間関係への影響
「お金を手に入れる」ことは、人間関係にも大きな影響を与える。夫婦や親子、親族同士のいざこざの原因として、お金が登場するケースは多い。離婚理由でも「お金の問題」は常に上位に位置する。また、仕事を優先するあまり、家族との会話や友人とのコミュニケーションが疎かになり、気づけば孤立していたという事例も少なくない。
人とのつながりは、私たちが幸福感を得るうえで欠かせない要素だ。どれだけお金を手に入れることに成功しても、日常的に喜びや悲しみを分かち合える相手がいなければ、幸せを感じにくい。お金と人間関係のバランスを見失うと、せっかくの収入も心を満たすことには繋がりにくいのである。
お金の持つ二つの顔
お金は、数字として把握しやすい一面を持っている。月の収入や支出、貯蓄や投資額など、計算すればある程度コントロール可能な「見える」要素だ。一方で、もう一つ見逃せないのが、潜在意識や感情に根ざした「見えない」要素である。幼少期の家庭環境や社会的な価値観、メディアの影響などから、お金に対するプラス・マイナス両面の感情が形成される。
たとえば「お金を手に入れるのは良いことだ」という肯定感や、「お金を持つと妬まれるから怖い」といった恐れ、「貧乏だと恥ずかしい」というコンプレックスなど、人それぞれ異なるお金観を内面に抱えている。こうした感情は、単純に数字だけでは測れない形で、私たちの行動や選択に影響を及ぼす。
お金をめぐる二つの力
お金には、「もっと手に入れたい」という引力と、「あまり振り回されたくない」という斥力が同時に働いている。まるで磁石のように相反する力がせめぎ合うからこそ、お金は多くの人にとって悩みの種となる。「お金を手に入れたい」という願望が強ければ強いほど、不安や競争心、あるいは罪悪感などの複雑な感情も伴うのだ。
この二つの力を自覚することで、自分がお金に対してどのようなスタンスを取りたいのかが明確になる。お金を手に入れることは大切だが、必要以上に執着することで生活の質が下がるかもしれない。逆にお金を遠ざけすぎると、安心感や将来の可能性を狭める恐れもある。自分の欲求と恐れのバランスを調整しながら、お金とほどよい距離を保つことが理想だ。
幸福とお金を手に入れるバランス
お金は人生を豊かにする重要な手段である。しかし、「お金を手に入れる」ことだけが目的化してしまうと、私たちが本来望む時間や自由、健康、人間関係といった要素が損なわれていく恐れがある。最終的には、お金をどれだけ稼いでも、それを活用する余裕がなければ幸福感には繋がらない。
大切なのは、お金を手に入れると同時に、自分が本当に譲れない価値観や優先順位を守ることだ。
えば、ある程度の収入を得つつも自由な時間を確保し、家族や友人との交流を大切にする選択肢があってもいい。あるいは、まずは収入を増やすことに注力する時期を設け、その後にしっかりと休養や自由を楽しむ時間を持つ方法もある。どのパターンを選ぶにしても、「自分で選んでいる」という納得感が重要なのである。
私たちの人生は限りがあり、時間は戻らない。そして健康や人間関係も、一度崩れてしまうと元に戻すには多大なエネルギーが必要だ。だからこそ「お金を手に入れる」前に、どんな生き方を目指すのか、どんなバランスを望むのかを明確にし、そのうえでお金の稼ぎ方や使い方をデザインしていく必要がある。
「お金を手に入れる」本当の意味
「お金を手に入れる」ことは、現代において避けては通れないテーマである。お金がなければ生活は成り立たない一方で、追い求めすぎると大切なものを失うというジレンマをはらんでいる。しかし、お金そのものが悪いわけではない。お金はあくまで道具であり、それをどう使いこなすかは私たち次第だ。
お金には計算で割り切れる面と、感情に揺さぶられる面がある。その二面性を理解し、自分の価値観や人生の優先順位を踏まえながら、「お金を手に入れる」過程でどんなコストを支払うのかを見極めることが重要である。そうすることで、お金に対する過度な恐れや偏見、過度な執着から自由になり、真に豊かな生き方を実現できるだろう。
「お金を手に入れる」という行為はゴールではなく、人生をよりよくするためのステップにすぎない。そのステップを踏む際に、自分が何を失い、何を得ようとしているのかを冷静に見つめ直すことが、幸せと自由に満ちた日々への鍵となるのである。