
商品が売れない理由は、商品の良し悪しではなく、「誰に・どこで・何を届けるか」が曖昧なことにある。スモールビジネスは、需要のある市場を正しく見極め、一番になれる場所で価値を届ける市場戦略が求められる。ライバル分析と商圏設定を怠れば、戦う前に負けが決まってしまう。自己満足の商品開発をやめ、顧客の不満から逆算する構造を丁寧に組み立てることで、売れる仕組みが生まれる。小さくても勝てる設計こそが、経営の生命線となる。(内田游雲)
内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者(特にスモールビジネス)に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
商品が売れない理由の多くは、需要のない市場に自己満足の商品を投げていることにある。
商品が売れない本当の理由とは
『「いい商品なのに売れない」と嘆く前に、その原因が見えていないことを認めるべきだ』
良い商品を作ったのに売れない。それは、スモールビジネスを始めた多くの人が一度は経験する悩みだ。「うちは他にない技術がある」「自信のある商品なんです」と言われることも多い。しかし、その商品が売れない理由は、決して品質や努力の問題ではない。たいていの場合、「誰に」「どこで」「どうやって」売るかという視点がごっそり抜け落ちている。
商品が売れない最大の理由は、顧客ニーズとズレていることにある。つまり「欲しい」と思ってくれる人がいない場所で、「これすごいでしょ」と押しつけている状態だ。いわば、南極でアイスクリームを売っているようなもので、どんなに味が良くても誰も買わない。市場を見る目がなければ、どれほど良い商品でも埋もれてしまう。
これは感覚の問題ではなく、構造の問題だ。市場とは「誰がどんな不満を持っていて」「それをどう解決すれば買ってくれるのか」を読み解く場である。商品を作る前に、それを必要とする人が実在するかを確認することが、実は戦略の出発点となる。
よくある失敗は、「自分がいいと思ったから」という理由で商品やサービスを作り始めることだ。もちろん、自分の想いが原動力になるのは素晴らしい。しかし、それを売るには、他人の現実との接点が必要になる。「これは私のこだわりです」と誇らしげに語るのも結構だが、それで財布を開くお客がいるのか、という問いからは逃げられない。
まず見るべきは「商品」ではなく「市場」である。どのような人が、どのような悩みを抱えていて、どこにその人たちが存在しているのかを見つける力こそが、売れるビジネスの始まりになる。
商品が売れない原因を“努力不足”や“価格のせい”にしていないだろうか。構造的な視点でその理由を見直したい方は、こちらの記事で整理しているのでぜひ参考にしてほしい。▶︎「売れない理由の分析」
一番になれる市場に届ける方法
『勝負は才能では決まらない。届ける場所と相手を間違えなければ、一番になれる』
スモールビジネスが勝つには、一番になれる市場を見つけ、需要のある商品を的確に届けることが欠かせない。
スモールビジネスが長く続くためには、「どこで勝負するか」を決めることが何より重要だ。大手と同じ土俵で戦えば、体力の差でいずれ潰される。けれども、小さな会社でも一番になれる場所は必ずある。それが「市場の細分化」、いわゆるセグメント戦略という考え方だ。
「全部の人に売ろう」とすると、誰の心にも刺さらなくなる。それよりも、「この人だけに売る」と決めて深く届けた方が、結果的に選ばれやすくなる。たとえば「50代の女性で、健康に不安を感じている人」に向けたサプリメントであれば、明確なメッセージと設計ができる。そこに響けば、価格競争にも巻き込まれにくくなる。
多くの人が失敗するのは、「誰に売るか」を曖昧にしたまま、商品だけ先に作ってしまうことだ。そして売れなかったとき、「この商品の良さが伝わらない」と嘆く。だが、そもそも伝える相手が曖昧なのだから、それは当然の結果である。
市場戦略とは、「どのニーズに応えるか」と同時に「どの市場でなら一番になれるか」を考えることだ。一番とはいっても、日本で一番でなくていい。町内で一番、業界内のニッチな分野で一番、特定の価値観を持つお客から一番支持される。それで十分に成り立つのが、小さな会社の面白さだ。
自分の商品が、誰のどんな悩みに届くのか。その答えを見つけたとき、商品の良さが初めて本来の価値として評価される。価値を決めるのは作り手ではなく、受け手である。ならば、その受け手が集まる「一番になれる市場」に向けて届けることが、商売の本質だと言える。
「良い商品をつくったのに売れない」・・・。その背景には、届ける相手がぼんやりしているという問題があることが多い。誰に向けてビジネスを組み立てるべきか迷ったら、こちらを読んでみてほしい。▶︎「ターゲット設定」
ライバルと商圏を知らずに戦うな
『地図を持たずに旅に出るようなものだ。まずは誰とどこで戦うのかを把握する必要がある』
市場戦略において重要なのは、ライバル分析と商圏設定によって“勝てる場所”を見極めることだ。
商売は旅に似ている。目的地も地図も持たずに出発してしまえば、どこに向かっているのか分からなくなる。特にスモールビジネスにおいては、「どこで誰と競っているのか」を知らずに戦うのは致命的だ。戦わなくていい場所で無駄に消耗する前に、戦略の地図を描くことが必要になる。
ライバル分析とは、敵をけなすことではない。むしろ、「自分はどこで、どのように差別化できるか」を明らかにする作業だ。例えば、同じようなサービスをしている競合が価格を武器にしているのなら、自分は「対応力」や「安心感」で勝負する。あるいは、客層や地域をずらして、戦わずに勝てるポジションを取る。これは逃げではない。賢い選択である。
そしてもうひとつ大切なのが「商圏設定」だ。どこで売るかを間違えると、せっかくの商品も意味をなさない。たとえば、高齢者向けの商品を若者の多いエリアで売っても響かないし、通勤者向けのサービスを住宅地で展開しても効果は薄い。つまり、商品と地域の相性を見極める力が商売の明暗を分けるのだ。
この商圏とライバルの情報は、決して机上の空論ではない。地域の統計データ、商店街の様子、周辺店舗の価格帯、口コミなど、現場で得られる情報は豊富にある。スモールビジネスだからこそ、こうした地に足のついた分析が生きてくる。
自分の立ち位置を見失えば、やがてどこにも居場所がなくなる。戦わずして勝つためには、まず「知る」ことがすべての出発点だ。地図を描ける者だけが、最短ルートで目的地にたどり着ける。
どんなに素晴らしい商品でも、売れる場所と届け方を間違えると結果は出ない。商圏の捉え方や届ける手段の設計について詳しく知りたい方は、こちらの記事にまとめている。▶︎「商圏と届け方の設計」
自己満足の商品開発は危険
『「これは売れる」と思い込むその自信が、商売の寿命を縮めていることに気づいていない』
需要のない商品を“すごい”と思うのは、作り手だけであり、失敗の原因はいつも自己満足にある。
「このサービスは他にはないんです」「自信を持って作りました」——そんな言葉を聞くたびに、少し胸がざわつく。商品への愛情や誇りは大切だ。けれど、それが“自己満足”で終わってしまえば、売れない原因に変わってしまう。経営者が自分に酔っているうちは、商売は伸びない。
売れる商品とは、「誰かの困りごとを、確実に解決する商品」である。問題を解決する力があるかどうか。それが、お客が財布を開く唯一の判断基準だ。そこに“想い”や“独自性”がどれほど詰まっていても、お客からすれば「それ、今ほしくないんですけど」の一言で終わってしまう。
多くのスモールビジネスがやりがちな失敗は、「先に商品を作る」ことだ。しかも、「自分が好きなもの」や「こういうのがあればいいと思ってたんです」という個人的な欲求からスタートしてしまう。もちろん、それが当たることもある。しかし、それは当たったのではなく、たまたま市場と一致した“偶然の成功”である。
成功確率を上げたければ、まず「お客の声」に耳を傾けることだ。何に不満を感じていて、どこに不便を抱えているのか。今ある商品やサービスの何が不満なのか。それを探るのが市場戦略であり、商品開発の出発点である。ニーズに沿った設計こそが、売れる商品を生む最短ルートになる。
「作りたいもの」より「求められるもの」。この順番を守るだけで、売れない地獄から抜け出せる。商品づくりはアートではない。あくまで“相手あっての構造”であることを、忘れてはいけない。
「経営は気合いでどうにかなる」と思っていたら危険だ。勝つためにはまず、構造的に儲かる仕組みをつくる必要がある。土台から見直し、無理なく利益が生まれる構造を整えるヒントはこちらにまとめている。▶︎「経営構造と戦略」
小さな会社が勝つ戦略の基本
『大きくならなくてもいい。小さくても勝てる戦略は、最初から設計できる』
スモールビジネスは、無理な拡大よりも市場戦略を最適化し、売れる商品を仕組み化することが生き残りの鍵になる。
「とにかく売上を伸ばそう」「どんどん拡大しよう」──そう叫ぶ経営者ほど、どこか焦って見える。確かに、事業を拡大している姿は立派に映るかもしれない。しかし、小さな会社にとっては、その拡大が命取りになることもある。商売を長く続けたければ、まず“最適化”という視点を持った方がいい。
小さな会社の経営資源は限られている。人手も時間もお金も足りない。だからこそ、できることを絞り込み、ピンポイントで当てにいく戦略が必要になる。「何でもやります」は、逆に「何にも強くないです」と言っているようなものだ。
重要なのは、自社の商品やサービスが「どの市場で、誰にとっての一番になれるか」を明確にしておくこと。たとえば、同じコーヒーでも、「忙しい在宅ワーカーの午後に集中力を取り戻すための1杯」という明確なポジションをとれば、ただのコーヒーが「選ばれるコーヒー」になる。
そして、売れた理由を言語化し、それを再現可能な「仕組み」にしておくこと。どのような販路で、どのような言葉で、どんなタイミングで売れたのか。これをパターンとして残せば、次も同じように売れる。スモールビジネスにとって、仕組み化は何よりの安心材料になる。
ビジネスは規模ではなく設計で決まる。大きくなくても勝てる構造を最初からつくる。それこそが、小さな会社の最大の強みであり、生き残るための戦略になる。
小さな会社が成果を出すには、あれこれ手を出すより「どこに集中するか」を決めることが重要になる。やらないことを明確にし、勝てる場所に全力を注ぎたい方は、こちらの記事がヒントになる。▶︎「一点集中戦略」