
資本主義社会を生き抜くスモールビジネス経営者の基本は、「使う金は収入より少なくする」という極めてシンプルな原則に尽きる。社会はあらゆる手段で私たちに金を使わせようとするが、経営者はその誘惑に抗い、支出をコントロールしなければならない。投資を成功させるためには、まず貯金が必要であり、そのためには自制心と継続力が欠かせない。見えにくくなった金の実感を取り戻し、地味でも淡々と資本を積み上げていくことが、最終的に資本主義というゲームで勝ち残る唯一の方法である。(内田游雲)
内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者(特にスモールビジネス)に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
この社会は「お金を使わせること」で回っている。起業したばかりの頃は、まるで世界が味方してくれているように感じるが、冷静になってみると、どうも違う。資本主義とは、資本が主役の社会。つまり、「金を持ってる奴が勝つ」というゲームだ。ここまでは本にも書いてある。問題は、そのゲームのルールが見えにくくなっていることだ。
資本主義社会の現実を見極める
実はこの世界、真面目にコツコツやっても報われないようにできている。なぜか?
それは「真面目にやって、我慢して、節約して貯めて資本にする」人が増えると、モノが売れなくなるからだ。誰も金を使わなければ、企業は儲からない。だから、社会は徹底的に「浪費は正義、節約は悪」と刷り込んでくる。
テレビCM、SNS、ポイント還元、タイムセール。どれも「買ってくださいお願いします!」のオンパレードである。街に出れば、目に飛び込んでくるのは巨大な看板。しかも多くが「ローンでもOK」「審査甘め」「分割払い歓迎」ときた。もはや「金がなくても使え」というのが、この社会の本音だ。
そして皮肉なことに、我々スモールビジネス経営者もこの構造に乗っかっている。自分は一円でも出費を減らしたいと願うが、客には一円でも多く使ってほしいと願う。この矛盾を飲み込めるかどうかが、資本主義で生き抜く第一関門なのだ。
この仕組みを知らずにいると、いくら努力しても報われない。企業は金を使わせようと、あの手この手で人々の欲望に火をつける。その炎が自分自身に燃え移っていることに気づかないまま、気づけば口座はスカスカ。気分転換にコンビニでスイーツを買って、さらにスカスカ。まるで「使ってしまう自動機械」だ。
何もかもが、我々の財布から一円でも多く吸い取ろうとしてくる社会。それが資本主義のリアルな顔である。だからこそ、経営者はまず「自分自身がこの仕組みに取り込まれていないか」を疑う必要がある。
資本主義で勝ち残るために、最初にやるべきことは、「自分が使う側」ではなく「使わせる側」に立っているという事実を冷静に見つめることだ。そして、社会がどれだけ「金を使わせる仕掛け」に満ちているかを見抜くこと。そうすれば、次にやるべきことがはっきりする。
生き残る鍵は支出のコントロール
資本主義を生き抜く上で、これ以上ないほどシンプルで確実なルールがひとつある。それが「使う金は収入より少なくする」だ。どんなに年商が億を超えようと、使う金がそれ以上であれば、ビジネスは破綻する。これはどんな会計士も税理士も異論のない、絶対の真理である。
しかし面白いことに、人はなぜかこれを守れない。これは怠慢でも無知でもない。単に、人間という生き物が「欲望を我慢するのが苦手」なだけの話だ。欲しいものを目の前に出されて、「やめとけ」と言える人間は、そう多くない。たとえそれが必要でないとわかっていても、だ。
そしてこの性質は、経営においてもそのまま反映される。立ち上げたばかりの会社で、ちょっと売上が出ると、つい新しい機材を買ったり、高い事務所に引っ越したくなったりする。収入が増えたから支出を増やす。だがそれでは、いつまで経っても貯金は増えない。貯金がなければ、いざというときの備えができず、ビジネスはあっけなく吹き飛ぶ。

スモールビジネスの経営者にとって、売上を追いかけるよりまず大事なのは、「出費を減らす」という考え方だ。売上を増やすのは手間も時間もかかるが、支出を減らすのはすぐできる。明日からでもできる。いや、今からでもできる。電気を消す、在庫を絞る、広告を見直す――すべてが即効性のある経営判断である。
しかも、支出を抑えることの効果は絶大だ。月に10万円の支出を減らせば、それは売上を20万円増やすことと同じ意味を持つ。利益率50%の商売なら、それでようやく10万円のキャッシュが手元に残るからだ。つまり、支出を減らすという行動は、それ自体が「攻め」なのである。
そしてこの考え方は、個人の生活にも直結する。経営と生活を分けて考える人もいるが、スモールビジネスではほぼ一体である。生活費を抑えるという行為は、すなわち経営の安定化であり、未来の投資原資を確保するという意味でもある。
だからこそ、今この瞬間から、「使う金は収入より少なくする」を体に叩き込むべきだ。誰に見せるわけでもない、SNSで自慢するためでもない、ただ静かに、無駄を切り捨てる。これは地味で目立たないが、資本主義の中では最強の技術だ。
支出をコントロールできる人間が、資本を持てるようになる。資本を持てる人間が、資本主義のゲームで生き残れる。これが、稼ぐよりも残すことが勝ちにつながる理由である。
お金の現実感を取り戻す技術
最近、自分が何にどれだけ金を使っているか把握できていない、という経営者が増えている。理由は単純で、「金を使っている実感がない」からだ。かつては財布の中の一万円札が減るたびに、「おっと、使いすぎたな」と思えたが、今は違う。Suicaにクレカ、スマホ決済。いつのまにか金は“見えないもの”になった。
これが実は、資本主義社会最大のトラップだ。金を使うことの痛みが消えると、人は無意識に使う。クレジットカードに慣れてしまえば、支出は“購入”ではなく“操作”にすり替わる。買い物とは、感情のボタンを押すことになる。
しかも、金を使うと気持ちいい。これは生理現象のようなものだ。ちやほやされる、自尊心が満たされる、自分が成長しているような錯覚に陥る。そして、これを企業も知っている。だから、「買う前のワクワク感」を演出するための広告が山ほど出てくる。
だが、本当に価値があるのは、商品を手にしたあとではなく、手に入れる“前の妄想”だ。誰でも一度は経験があるだろう。「これは絶対に必要だ!」と高額なサービスを申し込んで、数日後には「これ…別に要らなかったな」と思うやつだ。あのガッカリ感。それが“お金の幻想”の正体である。
つまり、我々はお金を使って商品を買っているようで、実は“想像された幸福”を買わされているのだ。だから、お金の現実感を取り戻すには、「本当に今それが必要なのか」を、買う前に10秒間、心の中で自問するだけでいい。「なぜ今これを買うのか?」「今じゃなきゃダメなのか?」それだけで、意外と冷める。
そして、もうひとつやってみてほしいのが、“現金に触れる”こと。給料でも報酬でも、いったん銀行から引き出して目で見て、手で触ってみる。束になった紙幣を目の前に置くだけで、「減らしたくない」という感情が芽生える。これはカード社会では得られない、お金本来の存在感である。
現実感とは、手触りだ。お金の手触りを忘れた人間は、資本主義の波に飲まれる。どれだけ頑張って働いても、現実感のないまま金が出ていけば、それは水のように手をすり抜ける。大切なのは、まず自分の手で金の流れを感じることだ。
“見えない金”をコントロールするには、“見える化”が必要だ。家計簿でも、会計ソフトでも、なんでもいい。数字として、自分がどこにどれだけ金を流しているのか。それを「見ること」が、お金の現実感を取り戻す最初の一歩となる。
投資はまず貯金から始まる
「投資」と聞くと、多くの人が株式や不動産、はたまた仮想通貨を思い浮かべる。だが、そもそも資本主義における“投資”とは何か。それは、資本を使って資本を増やす行為である。つまり、資本=金がなければ、投資なんて始まらない。
ところが、世の中には「投資で人生逆転」という夢のような話が転がっている。だいたいが広告か詐欺か、またはその中間のどこかにいる業者だ。特に「ゼロから始めるFX」とか、「1日5分で仮想通貨運用」といった触れ込みには要注意だ。ゼロから始めて、ゼロで終わるのがオチである。
資本主義の世界では、「資本を持っている者が強い」。そのため、投資を始めたいなら、まずやるべきことは“資本をつくる”こと。もっと言えば、貯金である。
経営者も例外ではない。経営を続けるにも資本がいる。拡大ではなくても、新商品を開発するにも、トラブル対応にも、何をするにも元手が要る。資本のない経営は、丸腰で戦場に出るようなものだ。どれだけ情熱があっても、資本がなければ身動きがとれない。
そしてその資本をつくる手段が、「使う金を収入より少なくする」という超シンプルな方法なのだ。これができる人だけが、ようやくスタートラインに立てる。

「貯金?そんなの後回しだよ。今は稼ぐ方が先だ」と思うかもしれないが、違う。稼ぐだけでは不十分だ。なぜなら、使えばなくなるからだ。いくら稼いでも、すべてを使っていれば、資本は生まれない。稼ぎ方ではなく、「残し方」が資本主義の肝なのだ。
たとえば、毎月2万円の黒字を10年間続ければ、240万円の資本ができる。これだけあれば、小さな事業への自己投資は十分可能だ。小さな販促費、機材投資、学びへの支出…どれも元手があるからできる。つまり、貯金とは、「未来の自分に渡す軍資金」なのである。
投資は、夢ではない。冷静な現実だ。だからこそ、“投資の前に貯金”という常識が、経営者には必要不可欠だ。売上が低くても関係ない。生活が地味でも問題ない。むしろ、それこそが資本形成の王道である。
派手に投資する経営者の裏で、堅実に貯金している者が、10年後に笑っている。資本主義では、地味な勝者が本当の勝者になる。
自制心と継続力こそが資産を生む
スモールビジネスの経営において、資本主義社会を生き抜く最大の武器は何か?
答えは「自制心」である。そして、それを支える「継続力」だ。
どれだけ稼ぐ力があっても、自制できなければ金は残らない。どれだけ節約しても、それが続かなければ資本にはならない。つまり、経営者にとって本当に重要なのは、ビジネススキル以前に、「金を守る心の筋力」なのである。
ここで、ちょっとした日常の場面を想像してほしい。
コンビニに寄ったついでに、予定になかったスイーツと雑誌を手に取る。Amazonのタイムセールで、前から気になっていた高めのガジェットをポチる。これ、誰もが経験している行動だ。
だがこの“たかが数千円”が、日々の経営をゆるやかに蝕んでいく。経営は、感情で動くとほぼ失敗する。事業主として真に問われるのは、\*\*「誘惑を見送れるかどうか」\*\*の能力なのだ。
そして、資産形成にもっとも効果的なのは、奇策ではなく“地味な継続”である。目立たず、飾らず、ただ支出をコントロールし、日々貯金を積み上げる。派手さはゼロだが、これ以上に堅実な経営戦略は存在しない。
世の中には、「裏技」とか「一発逆転」といった甘い言葉が飛び交う。しかし、その裏にはたいていリスクか詐欺が潜んでいる。実は、“普通を徹底すること”が、一番の近道であり王道なのだ。
なぜなら、資本主義とは“資本を持つ者が勝つ”ルールで動いているから。つまり、残せる人こそが強者なのだ。
派手な売上でもなく、華やかなSNSでもない。手元にどれだけ資本が残っているかが、経営者としての実力なのである。
さらに、自制心と継続力には副産物がある。それは“信用”だ。つましく生き、堅実に金を扱う経営者は、金融機関からも取引先からも信頼される。見せびらかすのではなく、積み上げる。これが資本主義における、最も地味で最も効果的な影響力の作り方である。
結局のところ、資本主義で生き残るために必要なものは決して特別ではない。
ただ、「収入より少なく使い」「それを続ける」だけだ。
たったそれだけで、資本が生まれ、資産が育ち、投資の種が芽を出す。
そして、その芽がやがて実をつける。
それこそが、経営者が資本主義という過酷な土壌を生き抜くための、最も確かな農法なのだ。
資本主義社会を生き抜く経営者に必要なのは派手な技でも最新の理論でもない、「収入より少なく使う」ことを淡々と続け、つましく貯めて資本を育てるという、当たり前を極める力である。