
社長にとって、決算書を読めることは必須スキルだ。貸借対照表や損益計算書は「会社の通知表」であり、銀行や取引先との共通言語でもある。「経理は女房に任せているから決算書なんて判らない」と言う社長は、資金繰りや経営判断で苦労しがちだ。数字を理解すれば、再現性のある戦略が立てられ、運任せの経営から脱却できる。決算書を味方につけることで、ビジネスの未来は大きく変わるのだ。(内田游雲)
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内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者(特にスモールビジネス)に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
スモールビジネスの社長なら、一度は「数字って苦手なんだよね」「そもそも、決算書なんて意味がない」と思ったことがあるかもしれない。だが、残念ながらビジネスとは数字との戦いと言っても過言ではない。銀行に融資を頼むにしても、取引先に信用を得るにしても、数字がなければ話は始まらないのだ。数字に強いと書いて“社長学”と読むとは大げさだが、そのぐらい重要だと思ってほしい。
小さな会社になぜ決算書が必須か
決算書というのは主に「貸借対照表」と「損益計算書」で構成されている。これらは「会社の通知表」とよく言われるが、まさにビジネスの成績を一望できるカンニングペーパーのようなものだ。通知表が真っ白だったら成績を推し量るすべがないように、決算書を読めなければ自社の調子が良いのか悪いのかすら分からない。
「売上は伸びているはずなのに、手元にお金がないのはナゼ?」なんて悩んでいる社長は、貸借対照表に目を向けてみよう。負債が膨らんでいたり、在庫が山積みになっていたりすれば、そこに資金が寝てしまっている。これを知っているだけで、「どうしてキャッシュが不足するのか」という謎の正体が見えてくる。
もちろん、「何が何でも決算書の隅々まで暗記せよ」なんて言うつもりはない。税務や簿記の専門的な部分は、税理士や会計士といったプロの力を借りればいい。ただ、最低限の数字の読み方と、会計知識に基づいた経営計画は自分の武器として持っておくに越したことはない。ビジネスは最終的に利益を出すことが目的の一つ。ならば、利益の源泉を映す決算書を無視するわけにはいかないのだ。
どんなに小さな会社でも、数字を把握する意識が社長自身になければ、経営そのものがギャンブルになってしまう。どうせなら同じ勝負をするにしても、ツキに頼るだけでなく、手札(数字)の把握をして戦略を組み立てたほうが勝ちやすいというわけだ。
女房まかせの経理が生む悲劇
「経理は女房に任せているから決算書なんて判らない」と豪語している社長に限って、いざというとき銀行からお金が借りられずにピンチに陥るのは、なんとも皮肉な話だ。もちろん、経理作業そのものは奥さまや家族、スタッフに助けてもらって構わない。むしろ、そのほうが社長は本業に集中できる。しかし、社長が決算書をまったく読めないままでいると、いざ資金繰りや新規投資の話が出たときに「えっ、それどういうこと?」と他人事のような顔をすることになる。
銀行や取引先にとっては、「数字がわからない社長」は言うなれば“空手形”のようなものだ。いくら人柄が良くても、数字で裏付けを示せない人に大事なお金を預けるのはハラハラする。いっぽう、ちゃんと貸借対照表と損益計算書を見ながら話ができれば、「この社長は先を考えているな」「見込みあるじゃないか」と評価されやすい。スモールビジネスの規模を問わず、結局のところ“会計”という共通言語を話せるかどうかが大きな分かれ道になる。

それに、「女房まかせ」で数字を丸投げしていると、自社が本当に黒字か赤字かさえ怪しい。下手すると、お金が出ていく先の内訳すら把握できない。後になって「なんでこんな借金膨らんだの?」と悲鳴を上げても、後の祭りだ。
「経理は女房に任せているから決算書なんて判らない」のは恥ずかしいわけじゃないと思う人もいるかもしれないが、世間の目はそう甘くない。社長が数字を読めない、つまり自分の会社の通知表を読めないのは、ある意味“資格喪失”みたいなもの。最低限の点数が取れないと、次のステージに行けないゲームのようなものだ。
「でも、数字って難しいし・・・」と敬遠する気持ちもわからなくはない。とはいえ、いちど身に付ければ一生モノのスキルになる。せっかく開業したのなら、数字をお友達にしておくのは得策でしかない。
銀行と笑顔で交渉し味方につける
会社の大小に関わらず、銀行との交渉は避けて通れない場面が多い。設備投資や新プロジェクトなどで資金が必要になると、どうしても外部の資金調達が欲しくなる。そんなとき、相手をうならせる材料が「決算書」だ。
「そもそも、決算書なんて意味がない」と思い込んでいる社長に、融資担当者は「この人、ギャグを言ってるのかな?」と困惑するかもしれない。彼らは数字が命。決算書という共通言語があれば会話がスルスル進むが、それがなければ「えーっと、ご趣味は?」なんて雑談に逃げるしかなくなるかもしれない。
銀行はお金を貸してもきちんと回収できると確信したい。その判断材料が経営計画と、裏付けとしての会計データだ。貸借対照表で資産と負債のバランスを見て、「このビジネスは堅実だな」「この投資プランなら回収できそうだ」と思わせるのが融資を引き出すコツ。そこに決算書の読み方を知っている社長が、的確な説明をすれば「この方、ちゃんと考えているじゃないか」となる。
もし社長自身が数字に自信満々なら「ご覧ください、この損益計算書の伸び率を。来季は売上30%アップ見込みです」と笑顔で攻め込める。銀行マンにとっても、数字がわかる相手は話しやすい。結果として、希望に近い条件でお金を借りられる可能性が上がるわけだ。
そうなれば資金調達がスムーズになり、事業展開にも勢いがつく。「銀行が味方につく」状況が作れれば、スモールビジネスでもビッグチャンスを掴みやすくなる。やはり決算書を武器にして、会計を味方につけるのが得策というわけだ。
「あれ? なんだか楽しそうだぞ」と思えてきたら、もう数字アレルギーは解消間近だ。数字を操る楽しさに目覚めたら、経営者としてワンランクアップしたも同然である。
数字で経営戦略を描く技術
会計というと地味なイメージかもしれないが、実は“戦略的思考”を育む最高のツールだ。単に「利益がいくら」「売上がどれだけ」という表面的な数値を見るだけではない。固定費と変動費のバランスを見て、損益分岐点がどこにあるかを理解する。これだけでも「最低限、ここを超えないと赤字転落だ」といった目安がつかめる。
感覚で突き進む経営もロマンがあるが、根拠のない自信だけで広告費をドカンと投入したら、あっという間に資金ショートを起こす可能性がある。数字を軸に計画すれば「この範囲なら広告費を上げても利益が確保できる」「この客単価なら十分にペイする」といった具体的な線引きができる。ビジネスがスムーズに回っていく感覚は、まさに爽快の一言だ。

また、生涯顧客価値(LTV)を計算できれば、長期的な視点で投資の判断ができる。「一回の購入では赤字だけど、リピーターになるとトータルで利益になる」なんて仕組みを作れば、目の前の赤字にビクビクせずに済む。数字が明確だと、将来の大きなリターンを信じて思い切った勝負ができるわけだ。
さらに、うまくいった戦略を再現するのも数字がカギになる。「なぜあのキャンペーンはヒットしたのか?」「どのコストが削減できたから利益が出たのか?」とデータを見返すだけで、成功要因を浮き彫りにできる。そこから同じパターンを別の施策に応用し、効率よく売上アップにつなげられる。ヒット曲を連発する歌手のように、自分の“おいしいパターン”を把握できるわけだ。
社長たるもの、「なんとなく感覚でやっているんです」だけではもったいない。数字を使いこなせば、より自由に、より大胆な戦略を描けるのだから、使わない手はない。藍ティアは数字があってこそ上手にハマるのである。
会計による再現性が生む成功曲線
数字には“再現性”という魔法の力がある。まぐれで一度当たった商売を、もう一度当てにいくのはなかなか難しい。ところが、会計データをきちんと取っておけば、同じ手をもう一度再現できる可能性が高まる。「あのとき、広告費はどれくらいかかった?」「原価率は?」「どの月に売上がピークだった?」などなど、成功と失敗の記録は数字で残せるのだ。
「でも飲食店は勘が命なんだよ」と思うかもしれない。ところが、飲食店でも数字を活用しているところは山ほどある。食材原価と客単価のバランス、テーブルの回転率など、ちょっと工夫すればいくらでもデータは取れる。やってみると意外と面白いもので、「これを変えたら売上が5%上がった」「客単価が300円アップした」なんて効果が見えると、“数字遊び”の楽しさにハマる人も多い。
また、ネットショップなら顧客獲得コストと売上を見比べて、広告予算を日々微調整するのが当たり前。これができれば不調なときも最小限の損失に抑え、好調なときはガツンと攻められる。数字嫌いでこれをやらず、ただ運任せで広告費を突っ込むのはリスクが高い。「まあ、そのうち当たるでしょ」では宝くじ的経営に近くなる。せっかくのビジネスなのだから、宝くじ感覚ではもったいない。
もちろん、最初は面倒に感じるかもしれないが、慣れてしまえば数字を見るのが楽しくなる。特に「今日の売上はいくらだったかな?」とチェックする瞬間は、仕事の疲れを吹き飛ばすエナジードリンクみたいなものだ。数字と付き合うだけで、実はビジネスがどんどん発展していく。まさに“お得な趣味”を手に入れたような感覚だ。
数字を愛し味方にする社長学
最後に強調しておきたいのは、決算書を読めるようになることは「経営者として最低限の責任」であるという点だ。たしかに「経理は女房に任せているから決算書なんて判らない」と胸を張る社長は存在するが、その姿勢を続ける限りビジネスの発展は偶然頼みになってしまう。数字がわからない経営は、いわば地図もコンパスも持たずに航海に出るようなもの。いつか座礁してしまう。
一方、苦手意識を乗り越えた社長は、新たな世界を開拓できる。数字と対話できるようになれば、自社の可能性は想像以上に広がるのだ。「そもそも、決算書なんて意味がない」と思っていた頃が懐かしくなるほど、会計の面白さに気づく人もいる。

ビジネスは大きく拡大を志向しなくてもいいし、社長が幸せになれるスタイルを追求するのも素晴らしい。そのためにも、まずは数字の土台をしっかり築いておくことが大事だ。数字がわかれば、拡大するもしないも自由自在。自分らしい形で事業を成長させたり、あるいは顧客と共に細く長く歩んでいく道を選ぶこともできる。
結局、数字を愛することは会社を愛することと同義だ。大好きな自分のビジネスを長く続けるためにも、決算書や会計データは最高のパートナーになる。
どんなにセンスのあるアイデアがあっても、数字が伴わなければ説得力は半減する。逆に言えば、社長が数字を味方にすれば鬼に金棒。「うちの会社って、じつは意外とイケてるかも?」なんて気楽に取り組みながら、気づけばビジネスが発展していた。そんな理想的な未来が待っているかもしれない。数字は苦手、決算書は退屈だと思い込んでいるなら、ぜひ一度その思い込みを手放してみてほしい。あなたの会社の「通知表」を読みこなすのは、あなただけに許された特権なのだ。