世の中が不景気になると、多くのお店や会社が販促費を削るようになる。これで、短期的な収益を改善することはできるかもしれないが、目先の販促費を削ると一時的に収益が改善されるが、その結果、数年後には大きな打撃を受けてしまうことになる。経営を安定させるためには、1回あたりに使える販促費をきちんと算出して、将来への投資は惜しまずに使うことだ。「顧客生涯価値」を把握して、効果があるかどうかを数字で理解しておくことが重要になる。(内田游雲)
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内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
以下の記事で伝えた顧客獲得コスト。
自分の会社やお店に当てはめて計算してみただろうか?
【参考記事】:
顧客生涯価値(Life Time Value)
その結果として、こんなにもかかってしまうなら、広告やチラシを打つなんてとても無理だと、そう思われたかもしれない。しかし、ここで朗報がある。実際には、世の中結構甘いものだ。
それを感じていもらうために、もう一つ知っておくべき数値がある。
それが、顧客生涯価値(Life Time Value)だ。よく、LTVと略されて言われるものである。これは、小さな会社の経営にとって、最も重要な数字ということができるものだ。
顧客生涯価値とは、
「1人の顧客が一生涯で生み出す利益」
のことである。
たとえば、ここにAさんというお客がいたとする。Aさんは、5,000円(粗利率35%)の買い物を年間10回、10年間続けたお客だ。残念ながら、10年後に引っ越ししてしまって、あなたのお店や会社との取引が終わってしまった。では、このAさんが、「一生涯かけて」あなたのお店や会社に置いていった利益はいったいいくらだっただろうか。
これは、簡単な計算で解る。
5,000円×0.35×10回×10年=175,000円
つまり、このAさんは、一生涯に175,000円の利益をもたらしたということになる。
さて、このAさんを獲得したのは、チラシを1万枚配って、10人の新規顧客を獲得できたうちの一人だったとする。
そうすると、Aさん一人を獲得するために、「新規顧客獲得コスト」が1万円かかったことになる。つまり、このチラシを撒かなければ、175,000円の利益をもたらしてくれたAさんとの出会いはあり得なかったのだ。
さて、そうなると、このチラシでの販促は成功だっただろうか。
これは、もちろん誰が見ても大成功である。Aさん一人で165,000円の利益を獲得したことになるからだ。
しかし、毎回必ずAさんのようなお客を獲得できる保証はないかもしれないと思うかもしれない。もちろん、こうした可能性はランダムに起きてくるのであるから全員が同じではない。
しかし、このAさんが、あなたの会社の「平均的なお客」だとしたらどうだろうか。
Aさんが平均的なお客さんならば、実際には、AさんよりももっとLTVが大きなお客も沢山いることになる。もちろん、反対にAさんより、ずっと少ないLTVのお客さんも沢山いる。そんななかで、全員の「平均的なお客」が、Aさんだということになる。
そして、平均的なお客だから、あなたが新規客を一人獲得すれば、Aさんのようなお客さんに成長する確率が一番高くなるのだ。ここが最も重要な部分で、一人の新規客を獲得すれば、一生涯で平均どれくらいの利益を置いていってくれるのかがわかるということだ。
これが「平均顧客生涯価値」という数値になる。
顧客生涯価値とコストの関係
先ほどのAさんが平均的なお客だとすると、チラシを1万枚配って、10人の新規顧客を獲得したときに、この10人も同じだけの利益を出してくれることになる。
つまり、チラシを1万枚配って、10人の新規顧客を獲得してその費用が10万円かかったとする。一人当たりの平均生涯価値が175,000円だから、全部で1,750,000円の利益が出ることになるのだ。
このお客を獲得するコストが10万円。
さて、あなたはこのチラシを出すだろうか。もちろん、やるに決まっている。
しかし、多くの社長が、1回の販促にかかる費用と、その場だけで積みあがった売上を比較して、効果を測定している。今回の販促は、黒字だった、赤字だったと一喜一憂している。
もちろん、目先の売上だけを考えるのであれば、それでもかまわないが、経営で最も大事なのは、継続的に物事を考えることである。目先の売上だけを追い続けた結果は、たいてい、業績が悪化していくことになる。
あなたが安定して経営を長続きさせたければ、短期的な視点で考えるのではなく、長期的な視点で考えるべきなのだ。
そんな中で、最も重要な指標がこの「顧客生涯価値」なのである。
顧客生涯価値の計算方法とは
あなたがビジネスで利益を出すために最も必要な情報は、顧客の生涯価値だ。生涯価値とは、そのお客さんが一生涯にあなたにもたらしてくれる総利益のことである。
仮に1,000円の商品で繋がった顧客が、その後も毎年1万円の商品を10年間購入してもらえれば、そのお客さんのLTVは101,000円です。(ここでは、原価や経費の計算は省いています)
つまり、理論上は、この1人のお客さんを獲得するために101,000円までコストを使っていいということになります。
それだけ使っても収支は、トントンになるということだ。ビジネスを考える上で、この数字をしっかりと把握しているかどうかが打ち手に大きく関わってくる。
この、生涯価値を正確に計算する方法は、次のようにしていく。
(1)一回のセールスでの平均的な販売額と利益を計算する。
(2)一人のお客が繰り返して何回買うかを調べ、それによる追加の利益を計算する。
(3)マーケティングに価格経費をお客の数で割り、1人のお客さんにかかる経費を正確に出しておく。
(4)見込客についての経費も計算する。
(5)見込客の中から販売に結び付いた件数を調べる(成約率)
(6)一人のお客が買い続ける間に稼げる利益の総額から経費を差し引き、お客一人当たりの利益額を計算。
これで、顧客生涯価値の計算は完了である。これが判ってくれば、どれだけ広告費をかけたらいいかやどのように集客したらいいかわかってくる。また、価格をどうするべきかや、どのような、仕組みを作るべきかなどビジネスの基本の部分が見えてくるのだ。
この顧客生涯価値は、小さな会社が経営をする上で、最も重要な数字だと言っていいものである。
平均顧客生涯価値を求める
そうはいっても、なかなか複雑な計算で、もう既に、計算する気が失せてしまっているかもしれない。書いている私もやる気が失せている。
そこで、最も使いやすい「平均顧客生涯価値」の算出方法をお伝えしておく。
「平均顧客生涯価値」の計算式は、
【創業以来の総売上÷創業以来の総顧客数×粗利率】
となる。
つまり、顧客台帳が整備されていれば、とても簡単に出すことができるのだ。ぜひ、算出をしておいて欲しい。
もし、顧客台帳が無い場合は、残念ながら出せない。しかし、現実には、多くのお店や会社が顧客台帳を整備していない。顧客台帳が未整備だったりすると、実際の顧客人数が把握できない。こうなると、顧客生涯価値(Life Time Value)が、計算できないという現実に突き当たることになる。
「年間の顧客数が判らない」場合には、年間の延べ客数を1/3にすると、概算の顧客数となりますので、使ってみることだ。だいたい、近い数字となるはずである。
さらに、もう一つ、10年も20年もかけて、「1回の広告にかかったコストを取り戻す」なんて、ちょっと、ついていけない。そう思うかもしれない。
そこで、現実的に考えるべきなのが、「年間平均顧客価値」である。
これは、
「1人のお客さんが1年間で生み出す利益の平均」
ということだ。
「1人の新規客を獲得すれば1年でいくらの利益をおいていってくれるのか」
これを計算する。
この計算式も簡単で
【年間売上高÷年間総顧客数×粗利率】
こうなる。
顧客数が判らない時は、これからカウントしていくことだ。1年後には、正確な「年間平均顧客価値」を算出することができるようになる。
そして、この「年間平均顧客価値」は、そのまま、一回あたりの販促費の基準になる。
前回の例で出てきたAさん。Aさんは、5,000円(粗利率35%)の買い物を年間10回のお客だ。この場合、5,000円×0.35×10=17,500円これが、一人のお客さんを獲得する時に使える金額の上限となる。
年間で利益を17,500円出してくれるお客さんを17,500円使って集めるというと、儲けが無いように感じてしまうかもしれない。しかし、利益は2年目から生み出せばいいのである。
新規客の集客という投資計算
新規集客費用は投資だ。設備投資と同様に、新規集客にかかる費用は、1年かけて回収し、2年目以降に利益を出せればいい。新規の集客に投資をして、既存客に育てて、利回りを得ていく。これが、集客の基本的な考え方だ。
ところが多くの場合、チラシに10万円を使って6人の新規客しか集まらなかったので、その後はチラシを配らなくなってしまうのだ。
しかし、17,500×6=105,000円だ。「年間平均顧客価値」から考えれば、充分効果があるのだ。翌年からは、経費0円で利益が出るようになる。
また、同じように、チラシに10万円を使って、今度は50人もの新規客が集まったので、その後はチラシを配らなくなった。こういった例もよく見かける。
これも大きな間違いだ。
17,500×50=875,000円で、販促は大成功だが、ここで満足するのではなく、生まれた利益を、さらに販促に「再投資」すべきなのである。反応率が5人に下がるまで繰り返し、繰り返し、同じチラシを打ち続けていけばいいのである。
こうすることで、2年目以降にレバレッジがでてくる。つまり、少ない元手でより多くの売上につなげることができるようになるのだ。
こうしたことを怠って、目先の売上だけを考えていると、最終的にお店や会社は、閑散としてしまうことになる。
だからこそ、
「1人の新規客を集めるのに、どれくらいまでコストをかけていいか」
これを把握して、集客を行い続ける必要があるのである。
不景気になると、多くのお店や会社が販促費を削るようになる。これで、短期的な収益を改善することはできるかもしれないが、目先の販促費を削ると、その時は収益が改善されますが、その結果、数年後には大きな打撃を受けてしまうことになる。
経営を安定させるためには、1回あたりに使える販促費をきちんと算出して、将来への投資は惜しまずに使うことだ。もちろん、むやみやたらに、販促費を使えばいいのではなく、「年間平均顧客価値」を把握して、効果があるかどうかを数字で理解しておくことがとても重要になる。
顧客生涯価値が計算できない
しかし、小さな会社の場合、ほとんどがこの数字を出すことができない。
その理由は、そもそも顧客数をデータとして持っていないからだ。見込客どころか、得意客のデータすらも無いという致命的な状態にあることすら多い。とにかく顧客生涯価値(Life Time Value)を算出するためにも、顧客のデータをしっかりと整備しておくことだ。
顧客データが無い場合には、まずこれを作ることを最初に行う。めんどく臭いと思いがちでだが、どこかで今の状態を変えていかなえければならないので、とにかく、取り掛かる必要がある。とりあえずは1ヶ月分のデータを作ることから始める。それを12倍にして、仮の顧客生涯価値を出していけばいい。
まずは仮でもいいので基準となる顧客生涯価値を作る。そして、1年後にこの数字を実際の数値で修正する。とにかく、データで考える癖をつけることからだ。そして、1年後にしっかりと顧客台帳を整備して、正確な数字を出すようにしていけばいい。多少のずれは生じるだろうが、年間の顧客生涯価値が出れば、それを基にビジネスを組み立てることができる。
誤差よりも、まず、この顧客生涯価値を知り、それを基に戦略を立てることができれば、ライバルに大きく差をつけることが出来るようになる。
今すぐ顧客生涯価値の算出に取り掛かろう。