社長と経営者の違いを知ればスモールビジネスはもっと強くなる

スモールビジネスを営む多くの人は、「社長と経営者って同じではないのか」という素朴な疑問を抱きがちだ。世の中的にも二つの言葉はしばしば混同され、「どちらも何となく偉い人」という雑なイメージで語られることが多い。だが本当は、社長と経営者には決定的な違いがある。この違いを理解することは、スモールビジネスを成功させる上でも、自分の人生を豊かにデザインする上でも欠かせないといえる。

経営者とは文字通り“経営をする人”であり、利益を追求して会社を存続させるマネージメントの視点が最も重視される。株主の利益を最大化できなければクビになる厳しい立場であることも多く、数字を管理し、冷静な戦略を組み立てることが主要な仕事になる。いわば“マネージャー”としての力量が問われるわけだ。

一方の社長は会社の長（おさ）。長（おさ）とは、つまり一族の長。一族を統率し、安全と繁栄に責任を持つ存在である。だから社長は、家族や従業員の為に働くことになる。つまり、より原始的な族長を意味する。リーダーシップを発揮して会社という一族を方向づけし、社員や家族と共に進むべき道を描いていくのが社長の務めだ。

スモールビジネスでは、この社長と経営者の両方の機能を兼ねなければならない場面が少なくない。だからこそ、社長学とマネージメントを並行して考え、リーダーシップと利益追求の両立を図る必要がある。会社を運営するのは簡単ではないが、いったんコツをつかむと、その柔軟さや自由度を生かして自分の人生まで豊かにデザインできるようになる。ここではまず、社長と経営者の違いをしっかり認識するところから始めたい。

スモールビジネスであればあるほど、社長がどんな思いで会社を率いているかが、そのまま組織全体の雰囲気や成長度合いを左右する。会社の長（おさ）として「一族（家族や従業員）の安全と繁栄に責任を持つ」という姿勢を明確に打ち出す社長がいると、小さな規模の組織ほど結束力が増し、まさに一族のようなアットホームな雰囲気を創り出せる。

創業期には特に、勢いと情熱が不可欠だ。数字だけ見て慎重になりすぎると、そもそもスタートダッシュが切れないこともある。新事業の立ち上げでは失敗も少なくないため、社員や家族と一緒に「まずやってみよう」と前向きに動く社長のリーダーシップが大きな推進力になる。もちろん、それが過剰になりすぎて資金繰りを見誤ると、大きなダメージを受けてしまう恐れがあるので注意が必要だ。

だからこそ、会社の長として社員を鼓舞する“族長力”と、数字を見据える経営者的視点をバランスよく使うことが肝心だ。もし社長が「社員や家族の幸せを最優先に考える」という姿勢を持ち、しかも利益を出せる現実的な仕組みづくりも怠らなければ、小さな組織ほどスムーズに回るようになる。よく言われる「会社は社長の器以上には大きくならない」という言葉は、この族長としての在り方を示唆しているともいえる。

スモールビジネスを営むうえで、「熱い想いは大事だけれど、冷静な分析も欠かせない」と感じる人は多いだろう。この両面を象徴するのがクールヘッド（冷静な判断）とホットハート（情熱）という考え方だ。

クールヘッドとは、売上やコスト、利益率といった数字を客観的に把握したり、リスクや将来予測を落ち着いて検討したりする側面を指す。スモールビジネスの場合、創業期から成長期にかけてはアイデア勝負で突き進むことが多いが、勢いだけでは危うい場面が出てくる。営業が好調でも、支出管理をしっかりしなければ資金繰りがショートしてしまい、心機一転したくても立て直しに苦労する。ここで冷静に数字を見られれば無茶を回避できるし、社員や家族への責任を果たす準備も早めにできる。

一方のホットハートは、社員や家族を本気で大切にしたいという強い気持ちや、顧客を喜ばせたいというワクワク感、そして「この事業を通じて世の中に貢献したい」というエネルギーを指す。特に従業員や家族の幸せのために頑張る族長的な姿勢は、小さな組織でこそ輝く。大企業では感じにくい家族的な結束力を武器にできるのは、ホットハートがあってこそだ。

クールヘッドとホットハートは、どちらか一方が優れていればいいわけではない。むしろ両方を使い分けることで、迷いやすい局面でも最適解を導けるようになる。新規事業を考えるときには情熱を燃やし、一方で実行に移す段階では冷静に資金や人材を配分し、リスクヘッジをしながら進めていく。どちらにも偏りすぎずに経営を進められる社長こそ、スモールビジネスを長く安定して維持し、さらなる発展を狙える存在になれる。

スモールビジネスで社長を務めるということは、リーダーシップを発揮しながらも、経営者として会社をマネージメントする役割も担うことになる。だが、経営の実務は多岐にわたるため、最初は右往左往するかもしれない。特に、マーケティングや営業、経理、総務など、ほぼすべてを社長一人がこなす状況がしばしば訪れる。

スモールビジネスであっても社長として学ぶべきことは多い。人を動かすリーダーシップの方法、利益を最大化するマネージメントの技術、社員のモチベーション維持、さらに実際の数字管理や資金繰り、時には税制や労務管理まで踏み込まなければならないこともある。

負担が大きく感じられるかもしれないが、その反面、やり方を工夫すればスモールビジネスならではの柔軟性が確保できる。誰かに相談すれば即座に体制を変えられたり、現場との距離が近いぶん改善が素早く行えたりもする。

注意したいのは、拡大しなければいけないという社会的なプレッシャーに流されすぎないことだ。確かに会社を大きくしていく道もあるが、拡大によって株主や出資者の意向が強まり、社長が自分らしい経営を続けづらくなるリスクもある。大きいことだけが良いわけではないし、とにかく安定しながら従業員や家族の幸福を追求する経営があってもいい。スモールビジネスの株主や出資者は自分自身だからだ。会社の長として、自分の望む未来像を明確にして、そこに合うマネージメントの形を選べばよいのだ。

スモールビジネスの社長は、会社を飛躍的に成長させることもできれば、あえて拡大路線を取らずに身の丈に合った経営を続けることもできる。どちらが正解というわけではない。むしろ重要なのは、自分がどんな人生を望んでいるかを明確にすることだ。

会社という舞台を使って社会的なインパクトを与えたいなら、資金を入れて一気に拡大し、多くの人材を雇い入れる方法もある。ただし、それには相応の覚悟とクールヘッドが必要になる。大きくなるほど株主やステークホルダーとの関わりが増え、社長が「家族や社員を何より大切にしたい」という姿勢を貫くことが難しくなる。

逆に、そこそこの規模でほどほどに利益を出し、仲間たちと穏やかに生きることを目指す社長もいる。家族との時間や自分の趣味を優先したいなら、そのほうが幸せだ。拡大しなくても、十分な利潤と自由なライフスタイルを確保できるなら、それだって立派な成功である。社会に埋め込まれた「拡大しないとダメ」といった風潮は、ひとつの価値観に過ぎない。

また、スモールビジネスにおいては、まず社長自身が経済的に安定することが、長期的な存続を支える原動力にもなる。社長が貧乏だと、心にも時間にも余裕がなくなり、社員や家族を安心させられない。だからこそ、自分が金持ちになってしっかり基盤を固めることは、族長としての責任を全うするためにも重要だ。

自分の限界をわきまえることも忘れてはならない。何でも一人で抱え込むと、どこかで息切れしてしまう。任せるべきところを任せ、社長が本来やるべき「道を示す」仕事に集中できる体制を作る。投げ出すのではなく適切な権限移譲をして、チーム全体で成長していけば、社長の人生にもきっと大きな可能性が広がる。

ここまで読み進めてきたあなたは、「社長と経営者が同じではない理由」を改めて意識できただろう。経営者はひたすら会社をマネージメントして利益を追求する役割を担い、社長は会社の長（おさ）。長（おさ）とは、つまり一族の長。だから社長は、家族や従業員の為に働くことになる。つまり、より原始的な族長としてのリーダーシップを発揮して、社員や家族の幸せを守るのが仕事だ。

スモールビジネスでは多くの場合、この社長と経営者という二つの顔を一人で持つことになる。そこにこそ「クールヘッドとホットハート」の使い分けが大いに役立つ。冷静な判断ができなければ事業を存続できないし、情熱がなければ社員や顧客の心をつかむことは難しい。結局、どちらに偏りすぎても成果を出せないが、うまく切り替えられれば驚くほど自在に経営をコントロールできるようになる。

拡大路線を目指すのか、安定と家族的な幸福を優先するのか。それは社長であるあなたの人生設計に関わる大きな選択だ。どちらが正解ということはなく、会社はあくまでもあなたの人生を豊かにするための手段のひとつと捉えていい。むやみに世間のプレッシャーに流されず、「自分は何を求め、どんな日々を送りたいのか」を最初に問い直してみることが重要だ。

社長学やリーダーシップ、マネージメントの技術を学びながら、自分の限界も見極めたうえで無理なく事業を運営すれば、スモールビジネスは驚くほど自由度が高い世界を見せてくれる。何より、自分が心から納得できる道を選びやすいところに魅力がある。会社をどう成長させるかではなく、自分の人生をどう生きるかが第一だ。

スモールビジネスというステージで、あなたが社長と経営者の本質を理解し、クールヘッドとホットハートを両立させて活躍する姿はきっと魅力的だろう。まずは会社の長（おさ）として一族を導く族長の誇りを胸に、そして経営者としての数字感覚を手放さずに、一歩ずつ未来に向かっていってほしい。肩の力を抜きつつも大事なところはきちんと押さえ、気楽な気分で進む姿勢こそ、スモールビジネスの大いなる可能性を切り開く鍵になるはずだ。