小さな会社がとるべき方向性は、「自分の好きなことから創造する商売」だ。「好きなこと」だから、時間を忘れて没頭できるし、「やりがいを感じている」から楽しく生き生きと仕事ができる商売である。本来全ての人間は幸福になるために生きている。だったら、自分のやりたいこと、得意なこと、やりがいのあることを仕事にできたら、その人の人生はより輝いていくはずである。(内田游雲)
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内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトのテーマ「気の経営」とは、この世界の法則や社会の仕組みを理解し、時流を見極めてスモールビジネス経営を考えることである。他にも運をテーマにしたブログ「運の研究-洩天機-」を運営している。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。世界の動きや変化を先取りする情報を提供する【気の経営(メルマガ編)】も発行中(無料)
仕事は楽しむことが重要
これまで、仕事をするということは、
「仕事はそんな甘いもんじゃない!」
「仕事だからタイヘンなのは当たり前!」
「仕事だから我慢しなければいけない!」
こうしたものだった。
しかし、それは本当だろうか?
私は、そうではないと考えている。
また、その反面、
「好きなことを仕事にできる人は幸せだ!」
こうした言葉も耳にする!
人生の中で仕事をしている時間は1日8時間、つまり、人生の1/3にもなる。これだけの時間を我慢と苦痛の中に置くことが、はたして本当に幸せなことなのだろうか?
本来全ての人間は幸福になるために生きている。だったら、自分のやりたいこと、得意なこと、そして人生の目的を仕事にできたら、その人の人生はより輝いていくはずである。
楽しいから仕事は上手くいく
情熱を感じることを仕事にして、自分の強みに特化した商売を実現することで、仕事自体が 楽しいものとして働くことができるようになる。
人間だれでも好きなことは時間を忘れてできるものだ。楽しいことだから元気になれる。楽しいからやる気が出る。そして、アイディアも湧き出てくる。さらに、強みを活かして本来の輝きを解き放つことで、いわゆるフロー(流れの中に生きる)体験を する人も多くなっていくだろう。
そもそも、なぜ私がこのフローについて 考え始めたかというと、私は、ここ数年運について考えていた。これは、よくいう占いの類ではなく、世の中には、いつも運のいい人、いつも運の悪い人がいる。こうした幸運・不運に差がつくのはなぜなのかだ。
ツイていない人もラッキーな人になれるのか?
じゃあ、その違いは何なのか?
そもそも、運がいいとはどういうことなのか?
こうしたことについて、色々と調べていたのだ。
どうすれば幸運になれるのか
そもそも「運がいい」とはどういうことなのかというと、運がいいとは、「物事が思うように運ぶこと」あるいは、すべての物事が都合のいいように働くということ」だ。これを、共時性(シンクロニシティ)の発動という。
それでは、この状態をどんな人でも作り出すことは、できるのだろうか?
これについては、過去にイギリスの大学が調査し、興味深い結果が出ていた。1ヶ月の間、幸運な人と同じような行動をしてもらい、自分の直感を大事にし、運があると期待をかけ、そして悪運には融通を持って対処するようにさせたのだ。
すると80%の人が自分の人生について幸福感を得て、幸運なように感じていたそうである。そんな幸運の要素と呼ばれる4つは、
1. 内から聞こえる直感を大事にする
2. 新しい経験をすることや普段の習慣が壊れることに対し心をオープンにする
3. 毎日少しの時間だけ、うまくいったことを考えるようにする
4. 重要な会議や電話などする前に、自分を幸運な人間だと心に描く
こうすることで、だれでも 幸運になることができるとしている。
仕事に幸運が巡るフロー状態
仕事でフローにはいるとどうなるかというと、まず、すべての物事が思うように運ぶようになる。ワクワクし無我夢中で何かに取り組んでいる時の精神状態になり、共時性が発動されていく。
共時性とは、
「同じ意味を持つ二つあるいはそれ以上の、因果的に無関係な出来事の同時生起」(ユング)と定義されるように、必要な人や物や出来事が勝手に押し寄せてくる状態だ。つまり、ひたすら運がよく、全てが思い道理に運んでいく状態である。
このフローは、すべての物事を成就させる力を秘めていて、何もかもがうまくいくようになる。つまり、このフローにさえ入れれば、何も考えなくても すべてがうまくいく幸運の状態になっていくのだ。
フローとは、流れに乗った状態のことで、確かな満足感と、生活に楽しさを与えるものである。そして、フローは、偶然を呼ぶ。つまりこの偶然は必然ということになる。偶然が起こるということはは進んでいる道が間違っていないことの証であって、意味のある偶然を掴み、流れに乗ることが、フローに生きることということなのだ。
フローのコツ「内発的動機」
このフローに入るコツというものがある。それが、内発的動機に従うことだ。一般的に人間は、外から与えられる何らかの報酬を求めたり、処罰を避けるために 行動を選択すると考えられている。
金銭や名誉、地位、人気などを求めること、競争に勝つこと、他者との比較で優位に立つこと、また法律に違反しないようにとか、他人から後ろ指を刺されないようにと評判を気にした行動、食欲や性欲といったようなものだ。これらを外発的動機という。
これに対して、心の底からこみ上げてくる動機を内発的動機という。
この内発的動機については E・デシの行った次のような実験が有名だ。とても面白いパズルを、被験者に解いてもらうと、当然休憩時間も熱中して取り組むのが普通である。ところが1問解ける毎に1$ずつ与えるようにすると、全員が休憩時間には休むようになる。わずが1$の報酬でも、パズルを解く喜びを奪ってしまうのである。
つまり、ほんとうの喜びや楽しみは、外部から与えられる一切の報酬とは無関係に、心の底からこみ上げてくるものなのだ。
日本では、このことをよく次のような言葉で表している。
「仕事の報酬は仕事である」
ところが、こうしてせっかくフローに入っても、人間は、その状態をなかなか長く続けられないのだ。
勝ち組はフローから外れる
今の社会では、勉強していい大学に入り、いい企業に就職して出世することや、起業したり、あるいはしこたま、お金が稼げる仕事に就いたりすることが、幼少の時からの人生の目標のようになってしまっている。
つまり「勝ち組」になり、社会の上層部に属することが、憧れであり、絶対的に善だと思われている。しかし「勝ち組」になったとたん問題が発生する。それは『自我の肥大』である。
自我の肥大というのは、自分の存在や影響力、能力などを過大評価することだ。
自我が肥大してくると、関心が自分自身に集中し、自己中心的になり、自意識が過剰となり、独自のものの見方にこだわるようになっていく。客観的な視点が失われ、すべてを 自分の利益に結び付けて発想する傾向が強くなる。そして、自分の思い通りに物事が進まないとイライラするようになるのだ。これが、自我の肥大した状態である。
フローに入るキーワードが 「自由で楽しいこと」にあるのであり、まったく正反対の状態となる。これでは、せっかく入ったフローの状態も続くわけがない。会社やお店をひたすら拡大したいという欲求もこの自我の肥大からくるものだ。
自我の肥大ワンマン型経営
人はなぜ自我の肥大を起こすのだろうか?
自我は、自分の身体だけを支配するのでは飽き足らず、際限なく拡大しようとする欲望があり、なるべく多くの他人を自分の支配下に 置こうとする性質を持っている。
現代の社会では、クリアな目標を確立して、それに向かって努力する生き方が求められているが、その方向性と自我の特性は同じルーツから出ているのだ。したがって、人は社会の中で活動を強めると、自我の肥大に陥っていく傾向が強くなる。
自我が肥大すると、経営にも もちろん大きく影響することになる。それは、経営者の自我が肥大するとどうしても、ワンマン管理型のマネージメントになってしまうからだ。自分がすべてを把握していなければ気が済まず、自分の思い通りに物事が進まないとイライラする経営者だ。よく言われるワンマン型と呼ばれる経営者達である。
もちろん自我の肥大は、すべてが悪いわけではない。特に危機的状況のときは、トップダウンのマネージメント、強力な支持・命令で組織をコントロールする ワンマン型のマネージメントが有効に機能することが多いのも事実だ。
ワンマン型だとリスクを恐れずに、素早い決定ができるため、たとえどんな決定でも、何も決定をしないことよりましなことが多いのだ。本来、企業の運営は全員が全速力で走っている状態を保つことが最も重要だから、ワンマン型の場合、 方向は間違っているかもしれないが、とにかく 組織のスピートを保って走らせることができるのである。
しかし、自我が肥大していると、特に危機的状況でもないのに、隅々まで自分の思い通りでなければ気がすまなくなっていく。部下は皆、上の顔色ばかりを見て疲れ切った状態になってしまい、そして、自我の肥大した経営者は、「何でうちは、こんなボンクラが多いんだ」と嘆きながら、ますます組織の支配に精を出すことに邁進することになる。実は、自分自身の態度が、部下をボンクラに 仕立て上げていることに、自我の肥大している経営者は 一向に気がつかないのだ。
フロー経営の鍵は小さな会社
さて、ここで小さな会社が取るべき戦略に話を戻してみたい。
そもそも、小さな会社がとるべき方向性は、「自分の好きなことから創造する商売」だ。「好きなこと」だから、時間を忘れて没頭できるし、「やりがいを感じている」から楽しく生き生きと仕事ができるビジネスである。これは、仕事がフローに入る条件と同じである。それはつまり、運がよくなる条件ということでもある。
私が「スモールビジネス経営」を発表した時には、多くの反論があがった。これまでの近代的で精巧な経営手法から見れば正反対だったからだ。
しかし、人間でも組織でも、合理性からはみ出した部分は、合理的な部分に比べて、はるかに大きく、はるかに大切で、はるかに本質的なもので、そもそも、人間も組織も合理的な存在ではないのだ。むしろ、合理的を超えたところにこそ正解があるものである。
経営者の成長でフローに入る
経営者の自我が成長して軽くなると、空気のような存在のマネージメントになっていく。自我の肥大がビジネスを硬直化させるのに対して、自我の成長はビジネスにフロー状態をもたらしていく。
つまり、経営者の人間的成長なくしては、ビジネスがフロー状態に入ることは難しく、特に中小企業や個人事業のような小さな会社においては、社長の人間性が最も大きくビジネスの成果に直結している。古くからいわれてきたことではあるのだが、経営者の人間性こそが、そのビジネスの成否を決める最も重要な部分なのだ。
私がコンサルティングをしている社長さん達は、自然とフロー体験をされる方が続出している。フローに入ると何が起きるかというと、いままで考えられなかったところから仕事のオファーが数多く届いたり、会えるはずのない人に会えたりといったことが 頻繁に起こり出す。
ただここで気をつけなければいけないのが、状況が良くなるにつれて、これまでのやり方が顔を出してくる。そうするとフローが止まって元にもどってしまうのだ。強みを活かして自分本来の輝きを発することが、このフローに生きていくコツなのである。
そして、やりたい仕事だけを行い、あえて拡大を目指さず自由に仕事も遊びもできるようになると、人生をもっと楽しむことができるようになるのである。